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大陸の東端に位置する国家、ルシェクシラ王国。
肥沃な土地と豊富な海産物で多くの人口を養い、大国と呼ばれるに相応しい程度の国土と国力を有する国である。
その王都の中心部、王宮のごく近くに白い塀に囲まれた一軒の館があった。

「ヒズベカ、ヒズベカ!」

その身に甲冑を纏った大柄な男が血相を変えて館へと駆け込んでくる。
一歩進む度に大きな金属音ががしゃがしゃと鳴り響く。

「どうなさいましたの? もしや」

大声で名を呼ばれた女は、尋常ではない様子を見て眉を顰める。
まさに蛾眉と形容するのがぴったりな凛とした眉は、顰められてなお麗しさを損なうことがない。

「……ああ、王命が下ってしまった。今すぐに逃亡の準備をしろ」
「かしこまりました。セペレナも呼んでまいります」

王国に君臨するレメグ王は暴君だった。
と言っても、彼はさして特別なことをしている訳ではない。
ただ国中から美女を集めさせては酒食に耽り、放蕩ぶりを諫言した臣下を処刑しただけ。
歴史という壮大な物語においては、あまりにありふれた登場人物の一人でしかなかった。
そんな暴君の犠牲になる者も、どんな時代にもいる普遍的な存在なのだろう。
将軍を務め、それなりの地位と財を持っていた男。
彼の妻、ヒズベカは美貌の持ち主として評判だった。
――その評判が王の耳にまで届いてしまっただけ。
以前からしていた最悪の想定。
王が将軍に対し、妻と十三歳になる娘を献上するように命じたのである。
当然、将軍からすればその命令を到底素直に受け入れられるはずがない。
王宮に送り出すための準備をすると称して最低限の時間は稼いだが、しばらくすれば催促の兵が送られてくるだろう。
地位故に国情に詳しい彼は、家族揃って逃れることが難しいと理解していた。
そうであれば、命を賭して妻子が逃亡するための時間を作り出さなければならない。
使用人達にも武装するように命じていく男は、既にこの場所で命を落とす覚悟を決めていた。

「セペレナ、これから馬車に乗ります。着替えずともよろしい、そのままの姿で来なさい」
「え……は、はい」

ヒズベカは娘の部屋に向かうと、急いでついてくるように命じる。
外出時と比べれば薄着はしていたが、自室だからといって下着だけで過ごすような「はしたない」真似をするような教育はされていない。
突然のことに戸惑いを覚えながらも、セペレナは母の言葉に従って読んでいた本を置き椅子から立ち上がった。
あらかじめ想定されていた事態であるために、庭では瞬く間に準備が整えられていく。

「二人とも、早く乗るのだ」

妻子の姿を見た将軍が急かす。
混乱しながらも父の言葉に頷き、その通りにするセペレナ。
二人が館から外に出てきた頃には既に馬車の用意が終わっており、そのまま車内へと乗り込む。

「――では、ご武運を」
「ああ。さらばだ。セペレナも達者でな」
「えっ、お父様」

微笑みを浮かべた将軍がそう言うと、戸惑っているセペレナをよそに御者の鞭によって馬車は疾駆し始める。
車体の窓越しに見える姿を見送ると、彼の命ですぐさま門は閉ざされ内側から固く閉鎖された。
妻子を送り出した男は、いつ敵が来てもいいように全身に力を籠める。
それは、戦場へと向かう前に彼がいつも行う習慣だった。


城門にはまだ母娘が逃亡したという情報は届いていない。
屋敷を後にしてから数十分が過ぎ、咎められることもなく夜の街を走破した馬車は城外に出るとがたがたと激しく揺れながらひたすらに街道を西へと疾駆した。
他国まで逃げ延びられれば追求を逃れられるであろうし、そうでなくとも都から離れれば一息つくことが出来る。
とは言っても、それが馬車である以上速度において騎兵に勝つことは出来ない。
将軍の奮戦次第とはいえ、途中で追いつかれてしまう可能性も十分にあった。
振り返れば、夜陰に紛れて館のある辺りから炎が上がっているのが見えた。
到底勝てるはずもない戦い。
それは命を懸けて逃亡のための時間を作った将軍が、奮戦の果てに討ち取られたことを意味していた。
夫を失ったことを理解したヒズベカの心の中に哀しみが広がる。
けれども、彼が命と引き換えにして作ってくれた好機をみすみす逃してしまう訳にはいかない。
彼女はその感情を表に出すことなく、無言でぎゅっと瞼を閉ざした。
高級な仕立て故に付けられている懸架装置によって随分と揺れが緩和されているとはいえ、路上に段差がある度に車体は時折跳ねるように揺れる。
それでも無反応なヒズベカに対して、何が何だか分からずに呆然としていた少女はその都度小さく悲鳴を上げた。
セペレナはこのように高速で疾走する馬車に乗ったことが無いのである。
衝撃も窓の外を高速で流れる景色も、彼女に悲鳴を上げさせるには十分なものだった。

「はしたないわよ、静かにしていなさい」

ようやく目を開けたヒズベカが言いながら後方に視線を向けると、後方に土煙が見えてきていた。
それが追撃の兵であることは深く考えずとも状況から容易に推察出来ることであり、土煙を見ればそれが騎兵であることもまた然りである。
一度捕捉されてしまえば、馬車である以上振り切るのが不可能であるのは初めから分かりきっていたことだった。
次第に彼我の距離が近付き、逃げ切れないだろうと理解すると彼女は自らが囮となり娘だけでも逃がす覚悟を決める。

「このままでは遠からず追いつかれるわ。お前だけは逃がすから覚悟を決めておきなさい」
「嫌です、お母様も一緒に逃げましょう」

まるで弾むように激しく揺れ、馬車は木造の車体を軋ませる。
時々身体が浮くような感覚を味わいながら、ヒズベカは悲鳴を抑え込んだ娘に告げた。

「私達二人ともが捕まれば、それこそ彼の死は無駄になるわ。無駄にしたくなくば、大人しく私を置いて行きなさい」
「……っ」
「それに、私は殺される訳ではないわ。生きてさえいれば、また会えるかもしれない」
「分かり、ました……」

正直なところ、セペレナには現状がよく理解出来ていない。
いつもと変わらない昼下がりにいきなり父に逃げるように言われ、母と一緒に馬車でここまで駆けてきただけなのである。
しかし何としてでも逃げ延びねばならない状況であるということは何となく分かったし、優しかった父がもう生きてはいないのだということも疑念を許さないヒズベカの言葉により分かってしまった。
――母が囮になるということは、まず彼女が捕まってしまうのだということも。
すぐには肯んじられず母に縋りついたセペレナだが、訥々と諭されるとしょんぼりと俯いて渋々頷く。
その間にも大きな音を響かせながら揺れる車体と、後ろから近付いてくる土煙。
次第に彼我の距離は近付き、遂に追いつかれると馬車は兵に取り囲まれる。

「止まれ、二人を連れ戻せという王命だ」
「止まるのはお前達の方よ、不躾な者ども」

強制的に停止させられる馬車。
扉に外から手が掛けられると、開けようとする者達へヒズベカが高らかに言い放つ。
気高さを纏わせた声は、草木の揺れる音が支配する夜の闇の中にはっきりと響き渡った。

「何だと?」
「扉を開けば私は喉を貫くわ。私を生きたまま連れて行けなければ、お前達はどうなるかしらね」
「ぐぬっ……」

馬車に載せてあった短刀を手に取ると、彼女はそれを白い首筋に当てる。
相手の言葉の信憑性を否定することが出来ず、扉を開けようとしていた兵は呻き声を上げながら思わず後ずさった。
ここでヒズベカに自害されてしまえば、王命に失敗した彼らに待っているのは死なのである。

「し、しかし脅されても見逃すことなど出来んぞ。そのようなことをすれば我々の命が無い」

かと言って、それは二人を見逃しても同じことなのである。
結局のところ、命じられた通りに連れて行くしか彼らが生き延びる道は存在しなかった。

「別に、私は逃げも隠れもする気は無いわ。私はこの子を逃したいだけ」
「無理だ、娘を取り逃がしたなどと報告すれば我々がどうなるか分からないのか?」
「私が上手く取り成してあげましょう。そうね、適当に機嫌を取りながらこの子を捕まえる遊戯だとでも言えば納得するのではないかしら」
「しかしな……」

確かにあの愚王ならば、適当に機嫌を取れば簡単に手玉に取ることが出来そうである。
しかし、そう上手くいくものだろうか。
そんな疑念にも襲われ、隊長格の男は悩ましげに首を傾げた。

「気付かないの? あの王は、私がお前達に犯されたと言えば疑いもせずにお前達を殺すわよ。この子を共に連れて行くならば、私は王にそう言うわ」
「そ、それは」

くすりと笑いながら彼女が宣言する。
美女であるヒズベカと男である兵達、果たしてレメグ王がどちらの言い分を信じるかは誰の目にも明白だった。
その意味で、大きく見れば彼女が兵達の命を握っていると言えるのである。
十分な脅迫材料として、ヒズベカにとっての手札の一つとなり得るものだった。
彼女の提案にそれまで頭を悩ませていた男は、表情を引き攣らせる。

「この子を逃してくれるなら、私がお前達の相手をしてあげましょう。私は抵抗などしないわ、お前達と私が口にしなければ王には分からない。悪い取引ではないのではなくて?」
「お母様っ」
「黙っていなさい。これが今の状況で出来る精一杯の交渉よ」

いくら蝶よ花よと育ってきたセペレナと言っても、母が言っていることの意味は理解出来る。
何をしようとしているのか理解した彼女は血相を変えてドレスを掴むが、脅迫じみた交渉に手応えを感じているヒズベカはぴしりと娘を黙らせた。
脅迫することで対等以上の心理状態へと持ち込んでいるとはいえ、本質的に追い詰められているのは馬車を取り囲まれている自分達の側なのである。
この状況から何とかセペレナだけでも逃さなければならないのだ、その程度の代償を払う覚悟は彼女には出来ていた。

「それでは物足りないと言うなら、王の所に行ってからもお前達の相手をしても構わないわ。可能かは分からないけれど」

脅迫して精神的に追い込んだところで、自らの身体という餌を目の前にぶら下げてみせる。
それからすぐさま餌を追加してみせれば、必ずや反射的に食いついてくるはず。
自分の美しさに自信を持っているヒズベカにはそうした確信があった。

「この子が逃げてしばらくしたら短剣を捨てるわ。そうしたら好きなだけ楽しみましょう」

ごくりと兵達の喉が鳴る。
その反応を見た彼女は嫋やかに微笑むと、甘い声色で提案した。
決してヒズベカに他を圧する程の並外れた声量がある訳ではなく、しかし兵達の耳にはもう彼女の声以外の何かが聞こえることはない。
明示的な返事が無くとも、最早彼らにはヒズベカによる誘惑に逆らう気が全く無いことは誰の目にも明白だった。

「馬車から降りたらなるべく遠くまで逃げて、夜が明ける前に中に入っている服に着替えなさい。その服では捕まえてくださいと言っているようなものよ。今着ている服は捨てるか売るかしなさい」
「は、はい」

その間に、小声でセペレナに今後のことを伝える。
今まで重臣の娘として豊かな暮らしを送ってきた娘がこれから一人で生きていかねばならないことには大きな不安があったが、彼女はそれをおくびにも出さない。
ヒズベカが場の空気を支配出来ているのは偏に凛とした態度故なのである、それを今僅かでも崩す訳にはいかないのだ。

「わ、分かった。娘には何もしない……!」
「交渉成立ね。では、もう少し馬車から離れて頂戴」

今は扉によって仕切られているが、いくら短剣を持っていても腕力に絶対的な差がある以上手首を掴まれてしまえば終わりである。
娘が逃げ出すために扉を開けた隙を狙われることを嫌って、ヒズベカはもっと距離を取るように要求した。
それに従って、兵達は数歩後ずさる。

「ではね、セペレナ。強く生きるのよ」
「はい、お母様……!」

これが今生の別れとなる可能性が高いことは理解している。
優しく微笑んだヒズベカが娘の背中を押すと、目を潤ませながら馬車から飛び降りたセペレナは一歩でも遠く離れようとするように街道を奔った。
普段運動らしい運動などしたことのない少女は、息を切らせながら石畳の上を進む。
本来彼女を捕らえるべき兵達は、その華奢な後ろ姿を黙ったまま見送る。
最早彼らの関心はそちらには全く向けられていなかった。
彼らがじっと見つめているのはセペレナが立ち去った馬車の方、その中にいる美女なのである。
故に、程なくして小さな背中を見失う。

「さあ、愉しみましょうか」

開け放たれたままの馬車の扉からいくつもの熱い視線を向けられているヒズベカは、少女の華奢な姿が闇へと消えてしばらくすると自らの白い喉に突きつけていた短刀を捨てる。
それから自ら黄色いドレスの胸元に手を掛けると、淫らに微笑みかけた。
セペレナはある程度の距離は稼いでいるだろうとはいえ、乗っている馬車が追いつかれてしまったようにそれを埋めることは不可能ではないのである。
片や育ちが良く一人で館の外に出たことさえ無かった少女、片や兵という職に就いている成人男性。
鬱蒼と広がる夜の闇はそれを埋めてくれるとはいえ、その体力の差は明らかだ。
兵達が本気で後を追い掛ける気になれば、一日もあれば捕まってしまってもおかしくはない。
なればこそ、彼女の夫が命を懸けたように彼女も娘を無事に逃がすために身体を利用するつもりだった。
自ら布地を下にずらすと、途端に中に押し込められていた豊かな膨らみがぷるりと揺れながら零れ出る。
闇夜に広がるどよめき。
夜陰に紛れている獣でさえ、この場に広がっている奇妙な熱気には気付くことが出来るだろう。
その様子を見て笑みを深めたヒズベカが手を離すとするりと布地は重力に従って落ち、彼女の上半身が露わになる。
あたかも真珠の輝きのように、差し込む月明かりの下に浮かび上がったのは染み一つ無い素肌。
もしも生き血を糧とする者が見れば牙を立てずにはいられないだろうくらいに真っ白な首筋。
隠そうとする素振り一つ無く凛と誇示された、大人の男の手の中にさえ収まりきらない程に大きな胸。
重いものなど何も持ったことの無いようにほっそりとした両腕。
到底子供を産んだことがあるとは信じられないようなくびれた腹部。
国中に美貌が轟くということは、それだけ並外れた美しさを持っているということなのである。
ましてや、自らの容姿を正確に理解して存分に利用するような振る舞い。
男達の妻、恋人、或いはいつも買っている娼婦、戦勝の際に強姦した女とは比べ物にならない。
国の高官が足繁く通うような高級娼婦もかくやという程の肢体がそこにはあった。

「美しい……」
「これがこの国一番の女か……」

思わず男達の喉がごくりと鳴り、口々に感嘆の言葉が上がる。
絶世の美女だというヒズベカの噂自体は以前にも耳にしたことがあったが、まさかこれ程美しいとは思っていなかったのである。
噂には何の偽りも無かったどころか、特に文学を生業としている訳でもない人々による言葉ではまだ過少ですらあったことを彼らは思い知っていた。
何故彼女のことを王が連れてくるように命じたのかを理解する。

「どうしたの? そうやって眺めているだけで満足なのかしら」

凍りついたように立ち尽くしている兵らを煽るように、ヒズベカは周囲を見回してくすくすと笑う。
通常ならば、ただの雑兵に過ぎない男達が抱くどころか触れることさえ出来ないはずの相手なのである。
そしてそんな雲の上の存在が抱いても構わないと言っているとなれば、到底男としての欲望を抑え込むことなど出来るはずがなかった。
微笑みに釣られて、馬車を囲む男達は止まっていた時間が流れ始めたように荒い息遣いでふらふらと彼女の姿に近付いていく。
セペレナが先程逃げ去った扉から不躾に馬車に上がり込む兵達。
ぎしぎしと木製の車体が軋む音が大きく響く。
広いとはいえ空間に限りのある車内はあっという間に一杯になり、外には溢れた男が所在無さげに立っている。
笑みを崩すことなく、必死になっている様子を楽しげに眺めるヒズベカ。
自分よりずっと体格のいい異性に囲まれても、彼女は全く臆してはいなかった。

「ぁ、は……っ」

壊してはならない荘厳な美術品を前にしたようにおずおずと、どこか遠慮がちに伸ばされた手がヒズベカの肌へと触れた。
しっとりと潤いがあって触り心地のいい肌は一度でも触れてしまえばあたかも磁石に金属が吸い寄せられるように離れ難く、隠すものの無い剥き出しの上半身をいくつもの大きな手が不躾に撫でる。
すると、鮮やかな紅に彩られた唇の間から熱い吐息が零れた。
日に焼けて浅黒い手が雪のように真っ白な肌の上を這い回る対比は見る者にどこか背徳的な印象を与え、それが男達の欲情を昂らせていく。
見ず知らずの異性、それも幾人もに触れられて生理的な嫌悪感を覚えていない訳ではない。
しかしながら、交換条件のこともあってそれを決して表に出すことはないヒズベカはその一方で与えられる愛撫に快感を覚えてもいた。
それなりに異性と交わった経験を持ち、娘も産んでいる彼女の肢体は性に花開いていて敏感だったのである。

「ふふ、そんなに焦らなくてもいいのよ。夜は長いのだから」
「あ、ああ」

後ろに立った男が、背中越しに豊かな両胸を掴むと指に力を込める。
眺めているだけでもとても柔らかいだろうと確信出来る膨らみは何一つとして予想を裏切ることなく、彼へと優れた揉み心地を伝えた。
まるで雲でも掴んでいるかのように指は沈み込み、それでいて力を緩めれば確かな弾力と共に元の形に戻ろうとする。
美しい容姿にも釣り合ったその感触を少しでも堪能しようと、男は手の中から零れ出していく肉を乱暴に揉みしだく。
遠慮も何も無い強さで掴まれて、軽く痛みを覚え眉を顰めるヒズベカ。
けれども余裕を保ったまま、少しでも堪能しようとまるで未だ異性を知らぬ少年のように必死に指を動かしている相手のことを彼女はそう言ってたしなめた。
優雅な態度に気圧され、男は言われるがままに手に籠めた力を弱める。
大柄な男達の中に、半裸の美女が一人。
そのような状況にもかかわらず、今空気を支配しているのはヒズベカだった。

「んむ、ちゅ……」

ただ触れているだけでは満足出来なくなった男達による行為は更に進行していく。
潤った紅い唇に自らのそれを重ね合わせると、舌を差し入れて夢中で貪る者。
今まで夫としか重ねたことのない唇を奪われたヒズベカは、口腔への不躾な侵入者を拒むことなくまるで絡め取るように迎え撃つ。
二人の舌が絡み合い、淫らな水音が冷たい夜に響く。
唾液を流し込まれると彼女は白い喉を鳴らし、躊躇無くそれを飲み干した。
また別の者は、胸の先端を口に含むと赤子が乳を飲もうとするかのように激しく吸い立てる。
与えられる刺激によって次第に固さを増し、ぴんと尖り始めた先端が舌先で転がされた。
双方の胸を代わるがわる吸われる度、ヒズベカの嫋やかな肩が幽かに跳ねる。

「ぁ、んふ……」

男達の一人がヒズベカのほっそりと引き締まった二の腕を掴んで軽く上げさせると、露わになった腋に舌を這わせた。
すると、花の芳香と僅かに感じる汗の味が鼻腔いっぱいに広がる。
倒錯的な興奮に、彼は着用した鎧の下で男性器を固く屹立させる彼。
狭い鉄の檻の中はあまりに窮屈であり、痛みさえ覚えるくらいだった。
言うまでもなく、名前さえ知らない相手らにそのようなことをされ恥辱を覚えぬはずもない。
唇を塞がれているヒズベカは、侵入してきた舌に応じて唾液が交わる水音を立てさせながら与えられる刺激と恥辱とにくぐもった声を上げた。
口づけによって行き場を失った声は息へと混じり、鼻に抜ける甘い音色が男達の耳を魅了する。
まるで脳が蕩けるような甘美な響きに、彼らの欲情は更に昂っていく。
だが、鎧を纏ったままではただ窮屈なばかりではなくこれ以上の行為をすることは出来ない。
故に行為の邪魔になったそれを脱ぎ捨てていく男達。
彼らがそれらを馬車の外に放り投げると、がしゃがしゃと転がっていく音が響く。
本来戦場で命を預けることになる大切なものも、絶世の美女を眼前にしてはどうでもいいものでしかなかった。

「ぁふ、ぅん……」

唇が離れると、代わりに柔らかな頬へと赤黒い屹立が押しつけられる。
欲情の程を示すように火傷しそうなくらいの熱を伝えてくるものを、ヒズベカは何の躊躇いもなく鮮やかな唇で咥え込んだ。
喉元近くにまで迎え入れると、舌を絡みつけるようにして舐め上げた。
すると幽かな苦味が舌の上を走り抜け、彼女は蛾眉を僅かに顰めさせる。
いつしか全身を弄っていた多数の手は白い肌から離れ、そのほとんどが男性器へと変わっていた。
丸い先端部が擦りつけるように胸の上を滑ると、膨らみは圧迫されるがままに自在に形を変える。
尖った桃色がこりこりと転がされると、その刺激によって熱いものに塞がれた唇の奥から呻くような声が漏れ聞こえた。
肩に掛かるくらいにまでの長さがある髪を後ろに立っていた男が手で掬うと、彼はそれを自らのものに巻きつけていく。
その状態で上から屹立を掴んで前後に擦ると、外から差し込む月光を反射して輝く金髪のさらさらとした感触が男に普段の自慰以上の快感を与えた。

「ぅ、おお」

先程までヒズベカの腋を舐めていた男は、やはり鎧を脱ぎ捨てると自らの屹立を腋に挟み込ませる。
そして掴んでいた腕を離して腰を前後させると、先走りが立てるくちゅりという水音と共に挟み込まれた彼のものが強く扱かれた。
まるで異性の秘部に挿入しているかのような感覚に、男は夢中で快楽を貪る。
更に細い手首を掴むとしなやかな指に屹立を握らせ、手淫させる者。
先走りが同性ですら見蕩れずにはいられないだろうくらいの造形美を誇るヒズベカの全身を汚していく。
彫像より美しい肢体を穢しているのだという背徳的な興奮が兵達の欲情を激しく煽り立てていた。

「んむ、ちゅ、ふ」

男のものを咥えたヒズベカは、自ら頭を前後させて口の中のそれに奉仕する。
その度にじゅぷじゅぷと水音が立ち、紅に彩られた唇の端からは唾液がつつと流れ落ちた。
彼女の鼻腔を支配するのは幾本もの男性器から発せられた生臭い匂い。
まるで脳まで屹立で犯されているかのような錯覚を感じ、施される愛撫によって真っ白だった肌は朱鷺色に紅潮していく。
隠しようのない快楽の証拠。
淫らな行為に欲情しているのは絶世の美女を前にした男達ばかりではなく、ヒズベカもまた同じなのだ。
しかし、にもかかわらず彼女の優雅さはいっこうに崩れることがない。
自らの意志で男性器を舐め指で握っていても、依然として見る者に高貴ささえ感じさせるような気品は纏われたままだった。
故に、男達はそれを突き崩して快楽に乱れさせたいという欲望に襲われる。
熱情のままに、ヒズベカが纏った黄色いドレスの裾がたくし上げられた。
露わになった白い部位。
やはりそこにも染み一つなく、目を凝らしても無駄な毛の一本さえも見当たらない。
肉感的な太ももはまるで処女雪が降り積もったかのように真っ白だった。
まだ屹立を押しつけていなかった男の一人が手を伸ばすと、肌にはしっとりと汗がにじみ始めている。
だが、男達の視線が向けられていたのはそこへではなかった。
その更に奥。
白い下着の向こう側にある、秘められているべき場所。
僅かに薄い布地一枚でしか隔てられていない場所のことを想像して、男達は思わずごくりと息を呑む。

「ん、ぁあっ」

事ここに至れば、最早遠慮などあるはずもない。
おもむろに伸ばされた無骨な指が、下着の布の上から縦になぞる。
直接ではないとはいえ全身で最も敏感な場所に触れられ、思わず唇を口内に受け入れていたものから離して淫らに喘ぐヒズベカ。
今まで散々施されてきた愛撫によって、彼女の秘部は十分に発情していたのである。
それを裏付けるように、今まで触れられていなかったにもかかわらずそこは既に蜜を零し始めてしとどに濡れそぼっていた。
布越しになぞった指先を、他の何よりも淫らな体液が濡らす。
その際に発せられたくちゅりという音はごく小さかったものの、この場にいる全ての人間の耳に届いた。
何人もの異性に囲まれて愛撫を施されているという現在の状況において、ヒズベカが強く興奮しているという何よりの証拠。
目の前の美女が全身に屹立を押しつけられて興奮していることが分かったのである、それは男達にとって更に愛撫をエスカレートさせていくための大義名分に他ならなかった。

「ぁ、ふ、んん!?」

ぐちゅぐちゅと音を立てさせる指先の動きが激しくなると、彼女は思わず頭部を大きく仰け反らせる。
振り乱される髪、露わになる白い喉。
その開いた唇の中に口淫を中断された男が自らのものを押し込むと、喉に届くくらいにまで深く届いた先端に塞がれて思わずヒズベカは目を見開く。
強引に息が出来なくされれば、さしもの彼女も余裕を崩さざるを得なかった。
ここまでヒズベカが決して態度を乱すことが無かったのは、隙を見せないことで場の主導権を握り続けようとしていたからである。
逆に言ってしまえば、一度余裕が崩れればその均衡が破れるのは必然的な結果だった。
集団としての心理も相まって、行為の主導権は次第に男達の側へと移り変わっていく。
今まではあったヒズベカへの一定の気遣いは次第に薄れ、美しい肢体を見る目はただ快楽を得るための道具へと変容していった。
頭を掴まれ、華奢な女性には抗い難いような力で強引に頭を前後させられる。
何度も喉を突かれると、サファイア色の瞳には思わず涙がにじむ。
しかし、それを自覚しながら彼女は強引に口腔に押し込まれたものに抗うことなく舌を絡ませて奉仕を再開させる。
既に名も知らぬ男達に抱かれる覚悟で身を擲っているのである、どのように扱われようともさしたる問題ではなかった。

「んむ、ふ、ぅんっ!」

下着を縦になぞっていた指の動きが速度を上げる。
大量に蜜を吸いきった布地はぴったりと秘部に貼りついてその形を露わにさせ、もう人目に触れることのないように覆い隠すという本来の役割を果たしてはいなかった。
吸いきれなかった液は雫となってぽたぽたと滴り落ち、馬車の床の木の色を変えさせる。
やがて水溜りのようになると、下着に手が掛けられる。
太ももに腕が回されて軽い身体が強引に持ち上げられ、太ももを通して下着が脱がされた。
すると、髪と同じ色の毛に彩られた秘部が男達の目に露わになった。
ひくひくと左右に動いている入り口からは鮮やかな紅色の粘膜が露わになっており、周囲を覆う毛は濡れそぼってぺたりと肌に貼りついている。
視線に反応するかのように奥からとめどなく溢れ出してくる透明な蜜がとろとろと床に零れ落ちた。
まるで蜂が敵に群がるように、それまで全身に手を這い回らせていた男達は我先にと押しのけ合いながらそちらへと集中する。
勝利した数本の手が粘膜に触れると、布越しとは比べ物にならない程強い刺激を受けてヒズベカは背中を美しくしならせた。
弓のように曲線を描いて倒れ込みそうになった彼女の背中をがっしりとした腕が支える。

「んぐ、ぅうう!?」

いつしかヒズベカの身体は太ももの裏に両側から腕を回されるようにして持ち上げられており、触れやすい高さになった秘部には何本もの指が不躾に押し込まれる。
入り口に鈎のように曲げた指を掛けて粘膜を左右に広げようとしたり、遠慮の無い勢いで指を奥まで押し込んだり。
気遣いの無い手つきたるや、散々愛撫を施された後でなければ苦痛しか覚えなかっただろう。
しかしながら、これまでの行為によって発情した彼女の身体はそれをも快楽として享受していた。
その都度、歓喜に咽び泣くように奥からは淫らな体液が溢れ出しては侵入者を濡れさせる。
潤んでいた目がぎゅっと閉ざされると一滴の涙が溢れ、朱鷺色に紅潮した頬を流れ落ちた。
一方で争いに敗れた者は元のように豊かな胸を揉んだり、腋に挟んだりと他の場所を味わっていく。
最早、ヒズベカの肢体で兵達に汚されていない場所などどこにも無かった。
とはいえ、存分に性交のための準備を整え終えている美女を前にしては彼らとて悠長に愛撫を続けていられるような余裕はない。
程なくして、誰が初めにヒズベカと身体を重ねるかを巡って諍い始めた。

「誰からでも、いいわ……。きちんと全員の相手になるから、焦らないの」

その様子を眺めていた彼女は、大きく息を乱しながらも呆れたように言う。
ヒズベカからしてみれば、どうせこの場にいる全員と交わることになるのである。
別に誰からであっても同じことでしかなかった。
そう言われてひとまず言い争いは止めた男達であったけれど、かといって率先して誰かが進み出ることはない。
共に戦場を生き抜いてある程度気心の知れている彼らは、無言のまま視線を巡らせて互いに牽制し合っていた。

「そうね、なら貴方」

束の間広がる静寂。
本当に誰からでも構わないヒズベカは呆れの感情を深めて溜め息を吐くと、一番近くにいた男を指す。
するとこれまで抱え上げられていた肢体が水溜りのようになった床の上に降ろされる。
指名された男は歓声を上げると、ぎゅっと力を籠めれば砕けてしまいそうな膝を掴むと両脚の間に割り込んだ。
今から、どんな高級娼婦と比べても全く引けを取らないような美女と和姦という形で身体を重ねることが出来るのである。
そのことに思考を巡らせて思わずごくりと息を呑んだ彼は、痛みさえ覚えるくらい限界までがちがちに固くなった自らの屹立の先端をヒズベカの秘部の入り口へと押し当てた。
そして数度上下に動かして粘膜同士を擦り合わせると、腰を進めて蜜と先走りとで存分に濡れそぼった欲情の証をゆっくりと押し込んでいく。

「は、ぁあ!」

ヒズベカの喉から今日一番甘い声が上がる。
砂糖水を煮詰めたように蕩けたその声は、彼女の秘部と全く同じように熱を孕んでいた。
異性を誘うようにひくひくと動いていた入り口はほとんど抵抗もなく待ちわびていたものを迎え入れ、まるで愛しい人に抱擁をするかのように粘膜を絡みつかせる。
腰が砕けてしまいそうな快感に、男の脳裏から思考が全て吹き飛んだ。
ゆっくりと動いて焦らすだとか相手にも快楽を与えるというような考えが消え失せた彼が夢中になって腰を叩きつけると、肌同士がぶつかる音が馬車の中に響く。
木製の車体が振動によってぎしぎしと揺れる。
覆い被さるようにしてぎゅっと重ね合わせる身体、そしてそれによって二人の間で押し潰されて形を変える膨らみ。
男の日に焼けた浅黒い肌は、ヒズベカの肢体の白さを対比によって引き立てる。
まるで純潔を象徴する女神の彫像であるかのような、そしてそれを汚しているかのような背徳的な感覚を男にもそれを眺めている他の兵達にも与えた。
それを見て大人しくしていることは、異性を性的対象とする男には到底不可能だろう。
中には自らの手で慰めている者もいた。
ヒズベカの身体を味わう前に達してしまうのは勿体無いと分かってはいたものの、順番が回ってくるまでとても我慢していられなかったのである。
周囲を見渡せば主に馬車に乗りきれなかった者を中心として半分程の男は自分でしており、床に投げ捨てられた下着を手に取り口に含んでいる者の姿もあった。
ぐっしょりと染み込んだ蜜の味を余すことなく啜り、やがて何の味もしなくなってもなお手放さない。

「ぅあ、もう出そうだ……!」

我を忘れて腰を振っていた男が、呻くように口にする。
火傷しそうなくらいに熱い粘膜が与えてくれる刺激はそれだけ極上のものであり、到底長い間耐えていることは出来なかった。
挿入する前から男性器をヒズベカの身体に擦りつけていたことも仇となっていると言えるだろう。
今まで戦場での勝利の後に敵国の若い女を強姦したり戦利品を売り払った金で娼婦を買ったりしたことも何度もあるけれど、そんな人生の中でも今程の快楽を得たことは無かった。
彼は表情を歪ませると、いっそう腰を激しく叩きつける。
勢いで車体が軽く弾む。
子宮を串刺しにしようとせんばかりの勢いに、ヒズベカが上げる声も更に高らかに鳴り響く。
半ば無意識のうちに、しなやかに細く長い彼女の両脚が男の腰にぎゅっと巻きつけられる。

「な、中に出すぞ!」

もっと長い間腕の中の美女と一つになっていたいという思いで腹筋にあらん限りの力を入れて絶頂へと至る衝動を抑え込んでいた彼だったが、意志の力だけで抑えきれるものではない。
遂に限界を迎えた男は、半ば叫ぶようにして射精を宣言する。
脚を巻きつけられている状態では射精の前に腰を引くことは難しかったし、そもそももしかすると二度と訪れないかもしれない彼女の子宮に白濁を注ぎ込む機会を逃す気も無かった。

「ぅあ……っ、ちゃんと、孕めよ!」
「ぁふ、ん! ええ、ひぁ、来て!」

ヒズベカは仮に嫌と言っても逃さないとでも言うように、自らの意志で両脚を締める力を強めると相手の宣言を受け入れる。
――それは、彼女なりの復讐だった。
娘を逃がすために王宮に入ることを選ばざるを得なかったヒズベカは、遅くとも明後日には夫を殺した仇であるレメグ王に抱かれることになる。
だが、たとえ身体を許そうとも子を孕むことまでは肯んずることはない。
どうせ孕むのならば、名も知らぬ雑兵の子をここで孕んで王の子であると偽って産もう。
それが彼女の選んだ復讐だった。
故に、孕ませてやろうという男の欲望はヒズベカにとっては望むところでさえあった。
この場にいる全員の相手をしようというのも、少しでも妊娠の確率を高めるために過ぎない。
その望みを叶えるように、とうとう解き放たれた熱い迸りは勢いよくヒズベカの秘部へと注がれる。
思いきり体重を掛けて肌を密着させた状態で射精された白濁は、彼女自身にもはっきりと感じ取れる程の勢いで子宮へと向かっていく。
このまま受精しますように。
片や何人もの初対面の相手との行為の中で父親の分からない子を孕むことを望む者、片や幸運にも身体を重ねる機会を手に入れた国一番の美女に自らの子を産ませようと望む者。
互いに互いを利用し合うかのように、この瞬間二人の思惑は完全に一致していた。

「ふぅ……最高だったぜ、あんたの身体。あんな歳の娘がいるとは思えねえ」
「ちょっと早いんじゃねえか?」

最後の一滴まで注ぎ終えてようやく息が落ち着くと、男はそう感想を口にする。
彼が味わったヒズベカの身体は、均整の取れた外見だけではなく秘部の締めつけもとても十代の子供がいる経産婦とは思えないようなものだった。
まさに極上と言って過言ではないものだったのである。
なおも少し固さを失ったもので暖かな粘膜の温度と感触を味わっている男に対して、他の兵から野次が飛んだ。

「しょうがねえだろ、最高な具合だったんだからよ」
「おい、お前が早漏なことなんてどうでもいいから早く代われよ」
「早漏じゃねえよ! ……仕方ねえな」

何も達したくて達した訳ではない。
叶うならもっとずっと一つになっていたかったが、あまりにも秘部の具合が良すぎたのである。
そう抗弁した彼に更に別の野次が飛ぶ。
二人の行為を散々見せられていた者は、当然のように早く自分の番が回ってきてほしいと思っているのである。
汚い言葉ではあるが、共に戦場で戦ってきた気心の知れた仲なのだから本気で言っている訳ではない。
軽く怒鳴り返した男は、渋々ながらもヒズベカの両脚の間から退く。
すると、今しがたまで受け入れていたものの形に開いたままの入り口からは白い液体が蜜と混じり合いながらどろりと流れ落ちた。
彼女を妊娠させようと放ち尽くされた白濁は、その量故に秘部には収まりきらなかったのである。
とても経産婦とは思えない完璧な均整の肢体を持った絶世の美女がしどけなく両脚を広げさせ、あまつさえ秘部から精液を零しているという官能的な光景に周囲の兵達は本能を煽り立てられた。

「よっしゃ、次は俺だな」

当然のこととして、同時にヒズベカと身体を重ねられる人数は限られている。
そのため、性交が行われている間に兵達はコインを使って行為の順番を決めていた。
勝負に勝ち残って二番目になった男が両脚の間に身体を割り込ませると、まだ開いたままの入り口へと自らの屹立を押し当てる。
彼が腰をゆっくりと進めると、ひくひくと蠢いていた秘部は獲物を誘い込むようにするりと男性器を受け入れた。
そして根本まで押し込まれると、鮮やかな色の粘膜は一転して激しく絡みつく。
既に一人を受け入れた後にもかかわらず秘部の締めつけは全く緩くなることはなく、中に射精されることを望むヒズベカの意志を反映しているかのようにきゅうときつく侵入者を締めつけた。
これまで散々焦らされていたも同然だった男は、狭い秘部の中をこじ開けるように腰を進めていくと思わず呻き声を上げる。
先程の男が極上と評していたのが過言ではなかったことを、彼は身を以て体感していた。

「ひ、ぁ、うぅん!」

達したばかりで敏感になっていたヒズベカは、その状態で再び異性のものを挿入されて甘い叫びを上げる。
痛いくらいに隆起したものを奥まで押し込むと、男は相手の背中に腕を回した。
普段武器を振り回して鍛えられた力強い腕で華奢な身体を抱き締めると、そのまま彼は軽い身体を起こさせる。
それによってヒズベカは俗に対面座位と呼ばれるような、挿入されたまま相手の膝の上に座るような体勢となった。
姿勢を保つために彼女もまた相手の首に腕を回して抱き返す。
密着する身体、二人の間で押し潰された胸がふにゅりと形を変えた。
その状態で男が下から腰を突き上げると、ぐちゅぐちゅという水音をさせながらの抽送と共にヒズベカの肢体はまるでボールのように弾む。
最初の行為と比べてもより奥まで突かれる体位に、彼女は脳天まで串刺しにされているかのような錯覚に支配される。
ふぁさりとその都度髪が揺れ、汗の匂いが少し混じった花の香水の香が兵達の鼻をくすぐった。

「これ以上待ってられねえ、後ろでいいから使わせろよ」
「ちっ、仕方ねえな……ほら」

一人の男が我慢出来なくなりそう要求すると、ヒズベカを抱いている男は舌打ちをすると身体を後ろに倒して馬車の床の上に仰向けになる。
すると必然的な帰結としてヒズベカの身体もまた前傾し、相手の逞しい胸板に体重を預けるような形になる。
男の上で四つん這いになっているような体位、それは秘部よりも後ろにあるもう一つの穴を周囲の兵達の目に露わにさせた。
そのような場所まで余すことなく全身を見られ、既に真っ赤になっている頬の温度が更に上がるのを自覚する彼女。
引き締まりながらも丸みを帯びた臀部が先程要求した男によって後ろから掴まれると、これまで散々自らの手で自分を慰めていた彼はそれによっていきり立ったものを朱鷺色の肌の上に擦りつける。
一体体勢を変えさせて何をしようとしているのかは容易に理解することが出来たが、ヒズベカは抗う様子一つ見せずにされるがままに身体を委ねた。
先走りによって濡れそぼっているものが彼女の後ろの穴へと突きつけられると、男はそのままゆっくりと腰を進めていく。
秘所の粘膜によるそれとは異なるきつい抵抗にも強引に割り広げるように挿入されていくと、初めて味わう感覚にヒズベカは眉を顰める。
だが下から突き上げられれば快楽によって全身の力は抜け、現在進行形で挿入されていっている場所の抵抗も緩む。
それにより生まれた隙を逃すことなく、男は一気に屹立を根本まで押し込んだ。

「ぁ、ふあ、あぁ!?」

幸いにもと言うべきか、力が抜けていたおかげで違和感こそ強くあったものの痛みを覚えることはほとんど無かった。
前後から挟まれるように深く貫かれたヒズベカは、その衝撃によって思わず目を大きく見開きながら肺から空気を吐き出す。
しかしそんな彼女への気遣いも無く、後ろに立っている男が腰を動かして抽送を始める。
体重を載せるように勢いをつけて腰をぶつける彼。
初めて故にまだ快楽も無く、ヒズベカは体内に巨大な異物感を感じる。
呼応するかのように下にいた男も突き上げを始め、日に焼けた浅黒い男二人の間に真っ白な女の肢体が挟まれるように体内が蹂躙される。
前後から交互に行われるリズムよい抽送。
絶世の美女がそうしてまるで陵辱されているように犯されている光景に、周囲の兵達が感じる視覚的な背徳感は更に強まる。
自らの手で慰める者の数は更に多くなり、そのうちの一人が思わず背を仰け反らせたヒズベカの頭部を掴むと薄く開かれていた唇にがちがちになっているものを無理やり押し込んだ。

「ぅく、もっときつくなりやがった……っ!」
「んむ、ふ、んん!?」

肺から空気が抜けている状態で全ての穴を塞がれた彼女は、満足に息が出来なくなり呻き声を発した。
呼吸が妨げられたことによって全身に力が入り、秘部の締めつけもきつくなって下になっている男も思わず声を上げる。
後ろから臀部を掴んで犯していた男もまた同様であり、身体中全ての穴を塞がれたヒズベカの肢体が与えてくる快楽はどちらにとってもこれまで以上に激しくなっていた。
二人もが行為に加わったことで兵達の抑えが利かなくなり、コインでの順番争いに敗れて自らを慰めていた者達が次々と彼女の足の裏や長い髪を使って快楽を得始める。
あたかも全身のことごとくを屹立で犯されているかのような錯覚に侵されるヒズベカ。
最早、男達にとって彼女の身体は快楽を得るための道具でしかなかった。


――それから何時間が過ぎただろうか。
既に夜は明けかけ、空はうっすらと青く染まりかけている。
そんな中、夜通し周囲に響き続けていた馬車が軋む音はようやく止まっていた。
車内に目を向ければ、そこには全身余すことなく白い液体に塗れた女性の姿。
焦点の合わない蒼い瞳は虚空を見つめ、豊かな膨らみを持った胸板はふいごのように上下していた。
絶え間無く白濁を零し続けている秘部は閉じることなく開いたままひくひくと入り口を痙攣させ、その後ろにある穴からも同様に白いものが流れ落ちる。
言うまでもなく、彼女はヒズベカであった。
あらかじめ宣言した通りに全員の相手をしたが、これ程の美女を前にして一人一度で終わるはずもない。
今まで延々と数十人もの異性の相手を何度も続けていた彼女は、ようやく行為から解放されていたのである。
当然のことながら普段から運動とは無縁なヒズベカの体力はとうに尽き果てており、四肢は力無く投げ出されたまま幽かにしか動かない。
元々白かった皮膚は紅潮しながらもその上から更に白く染め上げられ、最早彼女の全身で精液によって汚されていない箇所などどこにも無かった。
その姿を写真として切り取れば、死体と勘違いする者もいるかもしれない。
ぐったりとしたヒズベカが生きていることを証明しているのは、激しく上下する胸板くらいであった。
あちこちに精液が零れ水溜りを作っている馬車の床には途中で脱がされたドレスが落ちており、まるで水に浸したように白濁でぐっしょりと濡れている。
一方で、一人につき数度も欲望をぶつけた兵達はすっかり満足していた。
十分に性欲を満たした彼らは鎧を投げ捨てたまま眠りを取っている。
疲労困憊であるのはヒズベカばかりではなく、眠りもせずにもう一つの本能を剥き出しにしたままだった兵達も同じなのだ。
もしもこの瞬間何者かに襲われたとすれば全滅は免れなかったかもしれないが、幸いにも現在この近辺に他に人間は存在していなかった。
男のいびきやヒズベカの息遣いだけが時折聞こえる夜の静謐。
やがて、限界以上にまで体力を使った彼女の息は荒いものから静かな寝息へと変わっていった。








それから間もなく、王宮へと連れて行かれたヒズベカはレメグ王に美貌を気に入られて王妃となった。
国一番という評判に全く恥じないような美しさに王は夢中となり、それによってあちこちから美女を集めさせていた彼の放蕩ぶりがある程度収まることとなる。
少しするとヒズベカの懐妊も発表され、王国全体が良い方向に傾き始めたように見えた。
しかしそれから一年にも満たない後。
王子を産んだ彼女はその際に命を落とし、寵愛していた存在を失ったレメグ王は悲しみを誤魔化そうとするかのように再び放蕩を重ねることとなった。
絶世の美女と謳われていた王妃の死は民衆の間にも広がり、少女の耳に届く。
両親を失い、孤独になったセペレナ。
何が何だか分からないままに状況に翻弄され続けてきた彼女に理解出来たのは、両親とはもう会えないこと。
そしてそれが王の手によるものであることだった。
――父を殺され母までも失ったセペレナの心の中に広がったのは、昏い憎しみ。
育ちのよさ故に負の感情とは無縁に育った少女は、慣れない気持ちに突き動かされるままに復讐を誓う。
幸か不幸か、彼女には母譲りの美貌が生まれつき備わっていた。
近付こうと思えば、いつでも仇である王に近付くことが出来るだろう。
それこそ、その辺りに立っている兵達に自らの名を告げればいいだけ。
だが、非力な女一人に出来ることには限界がある。
後にも先にも機会は一度しか無いのだから、その時に復讐を確実に成し遂げられるような手段を講じなければならない。
最早帰るべき場所も安住出来る家も持たない彼女は、王を確実に殺すための手段を求めて行く宛ても無く流浪し続けた。

「西の森に悪魔がいるらしいぜ」
「あっはは、無い無い。ディルゼとでも見間違えたんだろ」

一年以上が過ぎた後に、流れ着いたのは国境近くにある街。
そこで、セペレナの耳にそんな会話が入ってくる。
普通の人間であれば無視して通り過ぎるような、何気ない噂話。
しかしながら、彼女にとっては気に留まる性質のものだった。

「ねえ、その話もっと詳しく聞かせてくれない?」

話していた二人組の方へと近付いていくと、おもむろに尋ねる彼女。

「あ、ああ。俺の知り合いの猟師が西の森の奥で悪魔を見たって言ってたんだ。酔っ払いながらだから本当かはよく分からんが、大分山奥なんだとよ」

いきなり見ず知らずの少女に声を掛けられて戸惑いを覚えながらも、質問に答える男。
困惑しながらも二人の目は無表情な美貌に釘付けになっていた。

「そう、ありがとう」
「あ、おい! よかったら街を案内するぜ!」

必要な情報を聞き出すと、途端に関心を失ったように踵を返すセペレナ。
その様子を見てもう一人の男が慌てて呼び止めようとする。
これ程の美少女が街に住んでいれば、今までその存在を知らないでいたはずがない。
どこか他の街から来たのだろうと確信しての言葉だった。

「必要無いわ」

一瞥して冷たく言うと、セペレナはそれきり男達の存在を無視して歩き去る。
微塵も興味が無さそうな様子に、それ以上引き止めることも出来ずに二人は華奢な背中を見送った。


彼女が耳にした噂で語られていた悪魔、それは遥か昔から諸種族から迫害されている種族だった。
かつて、ある時代ある地域において聖女と呼ばれていた女性の伝説。
戦いの絶えない世界の中で声の限り博愛を叫び続けた彼女は、やがてその大義を旗として多くの人々を集めるようになった。
そうして建国された国。
女王となった聖女は他種族との争いすらも否定し、当時獣と同然に扱われることの多かった異種族とも交わってみせたという。
聖女が自ら身を以て異種族との融和を体現したのだ。
やがて人々は種族の壁を超えて交わり、他国が攻め込んできた際には肩を並べて共に戦うようになった。
声高に聖女が叫び続けてきた、博愛の理想を掲げる理想郷が生まれたのである。
しかし、彼女が諸種族との間に様々な身体的特徴を持った子供達を設けた後のこと。
まだ子を設けていなかった最後の種族と聖女は交わり、無事に子供を孕んだと発表される。
種族の分け隔てない世界という彼女の理想の完結であるように思われ、人々はその報せに歓喜し大いに祝福したという。
それから一年と少し。
――膨らみきった腹からようやく産まれ出てきたモノは、自由意志も既存の生物としての姿形も持ち合わせていなかった。
子宮から生まれ落ちた存在は母である聖女の身体を貪り食うと、そのまま膨張して四方へとどこまでが何の器官なのかも不明な身体を伸ばす。
宮殿を破壊して空を覆い尽くした巨大な黒い身体が地上に降りてくる度に、下にいた人々が貪り食われる。
聖女の出産を祝うために宮殿の周囲には群衆が集っていたために、なおのこと被害は大きくなった。
予期せぬ災いを前にして人々は手を取り合って戦ったが、傷を与えられたかさえも不明瞭なままに返り討ちにされていく。
止めることの出来ぬまま果てしなく拡大していく災厄。
最後には周辺諸国の連合軍によってようやく討伐されたが、その頃には聖女の下に集まった人々の九割は怪物に食い尽くされて命を落としていた。
皮肉なことに、怪物のあまりの強大さ故に人間の力だけでは到底敵わず他種族と共闘せざるを得なかったことで他国においても諸種族の融和は実現した。
――ただ一つ、最後に聖女と交わった種族のみを除いては。
それまでは迫害されていたがゆえに起きることが無かったが、正常な理性も平和を求める気持ちも有するその種族は人間の女性と混血すると破壊と捕食を続ける怪物が産まれてしまうという性質を持っていたのである。
それまでは他種族と同じようにしか蔑まれることのなかった彼らは、その事件を機に大いなる災いをもたらす邪悪な者達としてより激しく迫害されるようになった。
そして生き残った数少ない人々は、それまで聖女として崇めていた彼女のことを破滅をもたらした魔女と呼んだという。


とても旧い、今では半ばおとぎ話のように語られる物語。
人間以外の種族からさえも加えられる長きに渡る激しい迫害の末にその種族は数を減らし、絶滅寸前にまで追い込まれていた。
ほとんどが殺されたために最早噂でしか語られることのない種族、ある街で偶然セペレナの耳に入ったのは生き残りが近くの山の中にいるという噂だった。
当の住人さえ信じていない単なる噂。
けれどもそれに一縷の望みを抱いた彼女は、その夜泊まっていた安宿を引き払うと山に足を踏み入れた。
噂されていた場所は、地元の猟師ですら足を踏み入れないような深く険しい山奥である。
まだ齢十五にも達していない少女にはあまりに辛く過酷な道程、心身に蓄積されていく疲労。
小さな歩幅では到底一日では踏破出来ず途中で夜が訪れるが、ごつごつとした地面の上では眠ったとしても疲れもあまり取れない。
その中でも彼女の身体を突き動かしたのは、偏に復讐心だった。
心の底で燃え盛る漆黒の炎はセペレナの身体に限界を忘れさせる。

「見つ、けたわ……」

そうして山中をほとんど当ても無くさ迷って何日が過ぎただろうか。
ふらふらになった彼女は、ようやく自ら以外の存在を発見した。
毛皮で作ったらしいぼろぼろの服から覗く真っ黒な肌に、頭部から生えた大きな二本の角。
人間とそれ程違わない姿形は、胸が膨らんでいないことからどうやら男性であるようだった。
その容姿は伝説に語られているのとほとんど同じ。
歓喜のあまりその場に崩れ落ちそうになる身体を、気力でどうにか繋ぎ止める。

「初めまして。悪魔さん」

しばらく木に寄り掛かって息を整えたセペレナは、木陰から足を踏み出すとそう声を掛けた。
足音と声が聞こえ、男はびくりと反応を見せた後振り返って身構える。
けれど、相手が小柄な少女であることを見て取って少し警戒を緩めた。
邪悪な存在として世界中から迫害される彼らにとって、他種族即ち自らを殺そうとする脅威なのである。
故に誰も来ることのないこのような場所で暮らしている男にとっては、自分以外の存在への警戒を欠かすことは出来なかった。

「……迷ったのか? 人間達の街は向こうだぞ」

今まで人間に出くわしたことが全く無い訳ではないが、必ずと言っていいほど怪物を見るような目をして逃げ去っていった。
にもかかわらず恐怖に染まるどころか笑みさえ浮かべている少女の反応は迫害を受け続けてきた男から見れば奇妙なものであり、戸惑いを覚えていた。
相手の意図が分からず逡巡しながらも街のある方向を指すと、男はどこに移動しようかと頭の中で思案する。
ここに自分がいると知られれば、きっと人間は殺しに来るだろう。
流浪の末にようやく見つけた安息の地ではあったが、人間と出会ってしまった以上もうこの場所に居続けることは出来ないのだ。

「いいえ、貴方に用があって会いに来たの」

別れ際の時の母の様子を思い出して再現するかのように、艶やかな笑みを浮かべてみせるセペレナ。
まだ幼さを少なからず残しているとはいえ、持ち合わせた母譲りの美貌に大きな価値があることを彼女は理解していたのである。

「俺が怖くないのか?」
「いいえ。怖かったら自分から会いになんて来るはずがないでしょう?」

偶然などではなく、わざわざ会いに来たのだという言葉。
単なる強がりなどではなく事実であることは落ち着き払った様子を見ていればよく分かり、男はなおのこと困惑を強める。

「それよりも、こんなところまで歩いてきたから足が棒みたいなの。寝処を貸してくれないかしら」
「好きにしてくれ……」
「そ、ありがとう」

険しい山奥なので、夜になれば気温は大きく冷え込む。
そのため男は焚き火の傍らに動物の毛皮をなめした寝処を作り、そこで睡眠を取っていた。
それを貸せという要求を彼が溜め息を吐きながらも承諾すると、セペレナは躊躇無く潜り込む。

「わざわざ来たのだから、寝ている間にどこかに行っていたら許さないわよ」
「あ、ああ。分かった」

借り受けた寝処の中で横になったセペレナは、男を軽く睨む。
自然の中で一人で生きていくことに慣れている男にとっては、寝処くらい一度手放しても自力でまた作り直せば済む話である。
この状況を罠かと疑い少女が眠っている間に立ち去ろうかとも考えていた彼は、そんな内心を見透かされたように睨まれてどきりとした。
そして疲れ果てていたセペレナは、かつて使っていたふかふかな寝台とは似ても似つかない粗末な寝処にもかかわらずすぐに眠りに落ちる。
無防備にすやすやと寝息を立てる少女。
睨まれたことで立ち去る機を失った男はしばらくのうちは自分以外の存在が近くにいることに落ち着かない様子でそわそわとしていたが、やがて諦めたように火の近くに腰を下ろした。
再び溜め息を吐くと名前すら名乗らぬまま無遠慮に寝処を占領した少女の姿に目を向けた彼は、整った寝顔に目を奪われる。
かつて「聖女」があらゆる種族から美女として称えられたように、種族は異なれども容貌に関する美的感覚はそれ程異ならない。
彼の目から見てもセペレナは文句無しに美少女だったのである。

「襲わないの?」

すると、いつの間にか目を開けていたセペレナがくすりと笑ってじっと自らを眺めている相手に尋ねる。
浮かべられている表情にはどこか妖しさが混じり、幼い顔立ちとの不整合性が魔的ですらあるような魅力を見る者に覚えさせた。

「馬鹿なことを言うな。そんなことをすれば」
「みんな死んじゃうんでしょ? 知ってるわ」

くすくすと笑いながら言葉を紡ぐセペレナ。
知っているからこそ、彼女はわざわざこのようなところまで来たのである。
故に、改めて言われたところで分かりきったことでしかなかった。

「そういえば、名前を聞いていなかったわね。私はセペレナ」
「ムパビスだ」
「そう。ムパビス、私を抱いて頂戴」

容姿に似つかぬ妖艶な笑みを浮かべるセペレナ。
まだ年若く糧を得る術も持たぬ少女が一人旅を続けていれば、異性を知らずにいられるはずもない。
何度も金銭や糧の代償として肉体を差し出したことのある彼女は既に生娘ではなかった。
そして、だからこそ復讐のために自分の身体を利用することに躊躇いを持つことは無かった。
単刀直入な言葉、それは母から受け継いだ美貌以外に取り柄の無い自分でも、憎き王への復讐を果たすことが出来る方法。
彼女は、女であることを利用して自らの子宮で怪物を産み落とすつもりだった。
聖女の話が最早おとぎ話になる程遠い昔のことである以上、怪物が生まれるというのが本当であるという確証は無い。
しかし、やはりおとぎ話のような存在である種族が現に存在しているのだから本当なのだろうと彼女は確信していた。

「馬鹿なことを言うなと言っただろう。何があったのかは知らないが、お前も死ぬぞ」
「構わないわよ、死んでも。今すぐにとはいかないけど」

身をひさぎながら孤独に放浪する日々は、かつて両親と豊かな暮らしを送っていたセペレナにとっては過酷なものだった。
彼女の精神を支えてきたのは偏に復讐心であり、もしもそれが無ければとうに心が折れてしまっていただろう。
もちろん代償として自らも等しく命を落とすことになるとは伝説を聞いて知っていたが、本懐さえ果たせれば生きていることに対して未練など無い彼女にとってはそれでも構わなかったのである。

「貴方もこんなところで暮らしていたら、女に飢えているのではなくて? 私のことを好きにしても構わないのよ」
「だ、駄目だ。疲れてるんだったら早く寝ろ」

少女の誘惑に、ムパビスは目の前の華奢な身体を組み伏せて抱いている光景を夢想する。
見事にセペレナの言葉は図星を突いており、彼は生まれつき男性としての性欲を持ち合わせながらもその本能を発散する対象を欠いていた。
稀に自分を慰める程度でしかなかった身には、少女の肢体はたまらなく魅力的に見える。
内心で叫ぶ、美しいセペレナを味わいたいという本能。
それによってムパビスの理性は大きくぐらつく。
しかし、彼はどうにかそれをねじ伏せてみせた。

「仕方ないわね。疲れているのは本当だし、今日は大人しく寝ることにするわ」
「ああ。寝心地は悪いと思うが、ゆっくり休め」
「別にちゃんと眠れるから構わないわ。おやすみ」

もう少しだったのにと残念がりながらも、強引に迫る程の体力が残っていないのは確かなので引き下がるセペレナ。
彼女は安宿に置かれた今よりも更に粗雑な寝台の上で身体を売り、一夜を明かしたこともある。
その時と比べれば今使っているふかふかの毛皮の方が余程ましであり、十分に眠ることが出来た。
少しすると、木々のざわめきと炎の音しかしない静かな周囲に再び寝息が聞こえ始める。
先程淫らな光景を幻視したことを思い出して、その姿から目を逸らすムパビス。
当然ながら一組しか寝処を持っていない彼は、焚き火を挟んだ反対側の地面の上に身体を横たえる。
がさり、と石の上に降り積もった葉が小さく音を立てた。


夜が明けると、昇った朝日の光が木々の間から二人の元にも差し込む。
それによりどこまでも広がっていた闇は大きく薄れ、単なる木々による陰りへと変わる。
ぐっすりと眠っていたセペレナは目を醒ますと、身体を起こして両腕を上げ大きく伸びをした。
一晩かけて冷やされた爽やかな大気が彼女の肌を撫でる。

「おはよう、ムパビス」

そのまま心地よさそうな様子で周囲を見回すと、焚き火の向こうでは既にムパビスが立ち上がっていた。
せっかく探し当てた相手が逃げたりしていなかったことに安心を覚えながら朝の挨拶をする。

「起きたのか」
「どこに行くつもり?」
「獣を狩ってくるだけだ。逃げはしないから安心しろ」

逃げるのかと責めるような口調に対して、振り返ったムパビスは意図を説明する。
どうやら人間による自分を殺すための罠ではないようだし、遠慮のない少女の態度もあってどこかに身を隠す気はすっかり失せていた。
今まで孤独に日々を送ってきた彼は、手元に一人分しか食料が無かった故にセペレナの分も用意するために獣を狩りに行こうとしていたのである。

「そう。いってらっしゃい」
「ああ」

もし逃げるつもりならどこまででも追いかけてやろうと考えていた彼女は安心し、微笑みを浮かべさせて言った。
美しい笑顔を向けられて、一晩眠って忘れたと思っていた昨夜の幻想が再びムパビスの脳裏によぎる。
顔が熱くなるのを感じながら(肌が黒いためにセペレナには気付かれなかったけれど)慌てて前に向き直った彼は、短く言うと心なしか急ぎ気味にその場を離れた。
残されたセペレナはその後ろ姿を見送ると、所在なさげに焚き火へと視線を移す。
これが街中であれば、育ちの良さ故に文字を読むことが出来る彼女には退屈を慰める手段がいくつもある。
しかしながらこんな木しか無いような森の奥では、するようなことがあるはずもなかった。
土地勘が無いので暇潰しにうろうろとさ迷ってみてもここに戻ってこられる自信が無かったし、そもそも多少歩いたところで山中にいる限り森と岩以外にこれといったものがあるとも思えない。
けれど、最も大きいのは普段性行為以外の運動をしたことのない彼女が昨日限界まで歩き回ったことによる反動だろう。
ふらふらになっても棒のように感覚が無くなるまで執念で駆り立てた脚は、その代償として劇的な筋肉痛に襲われていたのだ。
寝処の中で少し動かしただけでも相当に痛いのである、もしも無理に立ち上がればどれ程の痛みが走るかは想像に難くなかった。
結果、ムパビスが戻ってくるまでは寝処でじっと待っていることしか出来ないのである。
退屈そうに右の人差し指をくいくいと動かしながら、彼女はじっと炎を眺めていた。


地面の上の落ち葉が踏まれて立てるがさがさという音が聞こえてくる。
そちらの方向に目をやると、黒い肌の体格のいい男が小型の四足獣を担いで歩いてきていた。
言うまでもなく、それはムパビスである。

「お帰りなさい。そんな重そうなものを担げるなんて逞しいのね」
「これくらい出来なくては生きていけないからな」

小型とは言っても、セペレナの華奢な身体と比べれば巨躯だと言える。
そんなものを担いでみせていることに感心したように言う彼女に対し、ムパビスが答えた。
意図的に他者と接触しないようにしながら山奥で孤独に暮らすことは、極めて過酷な行為である。
一人で獣を狩って持ち運ぶことが出来なければ食事さえ出来ないのだから、長くそのような暮らしを続けていればそれくらい出来るようになるのは必然だろう。
彼は肩に背負った獣を降ろすと、横腹に懐から取り出した小型の刃物を突き立てる。
狩りや調理のみならずいざという時には護身用にするなど、刃物はムパビスにとって生きていく上での必需品だった。

「へえ、動物ってそうやって解体するのね」

普段から慣れているのでさすがというべきか、彼による解体はとても手際がいい。
退屈を募らせていた少女にとっては実に面白いものであり、それを見て感心したように言うセペレナ。
その美しい顔立ちには好機の色が濃く浮かべられる。
かつてであれば血や生の臓器を見て恐怖に叫んでいただろう彼女だが、怯むことさえなく平然とした様子のままであった。
じっと眺められて少し居心地の悪さを感じながら、ムパビスは無言で解体作業を続けていく。
少しして作業を終えると、近くに落ちていた枯れ葉で刃物に付着した血と脂を拭った彼は切り分けた肉と内臓とに緑の葉を巻きつける。
それはこの山に自生している香草であり、どの草が食べられるかということも知っているムパビスが取ってきていたのだ。
葉の上から木の枝を突き刺して固定すると、そのまま焚き火の上に翳す。
じゅうじゅうと響き始める音、ぽたぽたと滴る肉汁。
分厚い肉塊と香草が炙られる匂いが周囲に漂うと、ぐうと腹が鳴る音が辺りに響く。
もう数日間何も口にしていなかったセペレナの身体が、それを嗅いだことによって空腹を思い出していたのである。
食欲が刺激され、乾いていた口腔にじゅわりと唾液が分泌されていく。

「――っ」

気がつくと、セペレナはごくりと喉を鳴らしていた。
空腹を知らせる音といい喉を鳴らすことといい、かつてであればはしたない行為だとして赤面していただろう。
しかし、それに羞恥を覚えるには今の彼女はあまりに世間擦れし過ぎていた。
自らの行為を気にする様子もなく、その視線は肉に釘付けになる。

「ほら、出来たぞ。葉ごと齧ってくれ」
「ありがとう。美味しいわ」

一通り火を通し終えると、ムパビスは先端に分厚い肉塊を突き刺した枝を少女へと手渡す。
受け取ったセペレナはそれなりにある重さに少し腕をがくりとさせながらも、落とさないように肘を曲げて引き寄せて言われた通りに齧りつく。
食器を使わずに直接食材を口にするなどという行為もまた昔なら考えられなかったことであるが、今はごく自然な仕草として可能だった。
少し乾いた唇が開かれて中から赤い舌が覗き、綺麗に並んだ白い歯が立てられる。
唾液によって潤わされていた口腔へと途端に広がる肉汁、そして香ばしい匂いと混じり合いながら鼻へと抜ける香草の爽やかさ。
両親がいた頃は本職の料理人が腕によりをかけて作った豪勢なものばかりを食べていたセペレナだが、孤独な旅の中ではかつては想像さえしたこともなかったようなみずぼらしい食事をすることが多かった。
それこそ、男の精液だけで空腹を誤魔化したことさえもあったのである。
常日頃の食事からすれば、肉を焼いただけのものでさえも今の彼女にとってはご馳走だと言えた。
しかも、飢えている状態となればなおさらのことである。
以前ならば見向きもしなかったようなあまりに単純な料理も、セペレナの舌には十分に美味として感じられた。

「どうしたの?」

けれども、育ちの良さ故かそのような食べ方をしていてなお彼女の振る舞いはどこか優雅に見えた。
もしかすると、人間の社会で高貴な存在なのかもしれないと感じるくらいに。
思わずじっと見入っていたムパビスに対して、少女は悪戯げに笑う。
自分の美貌をよく自覚しているセペレナは、相手が自分の姿に見蕩れていることを分かっていたのである。

「い、いや、何でもない」

咄嗟に目を逸らすと、ムパビスは誤魔化すように手にした枝の先の肉塊に齧りつく。
彼の口の中にも肉汁と香りが広がる。
セペレナと比べて大きく鋭い歯並びで一気に噛み千切ると、断面からは芯まで完全には火が通りきっていない赤い色が覗く。
それきり、焚き火が燃える音を聞きながら二人は無言で食事を続ける。
だが、今までずっと一人が当たり前だった食事の場に他に誰かがいるということでムパビスは少女の存在をつい意識せずにはいられなかった。
豪快に肉塊を食しながら、彼の目線はついちらちらとセペレナへと向かうのだった。


一口分の量が違うため、必然的に食べる速度も異なってくる。
先に食べ終えたムパビスが枝を焚き火の中に放り込むと、遅れて完食した少女もその真似をする。

「ごちそうさま。美味しかったわ」
「ああ」

香草だけの単純な味付けだったが、噛む度に口内に広がる肉汁は空腹には何よりの調味料だった。
肉の脂の付いた枝が投げ込まれると、それを燃料として炎が少し激しさを増す。
その音を耳にしながら、互いの間にはまた無言が広がる。
会ったばかりの二人はまだ相手のことをほとんど知らない。
元々ムパビスは然程多弁な人物ではないこともあって、きっかけが無ければ会話も生まれなかった。

「ねえ、退屈だわ。何か面白い話を聞かせて頂戴」

不意に、セペレナの言葉が静寂を破壊した。
娯楽など無いどころか、見渡しても岩と木々しか周囲に見えないような深い山の中である。
ましてやか弱い少女に過ぎないセペレナであれば自由に身動きも取れないため(ここまでは復讐のためにムパビスに会いたい一心で無謀な行路を進んできたのだけれど)なおさらであり、退屈を覚えた彼女は何か話をしてそれを紛らわせてくれるように求めた。

「退屈なら人間の街に帰れ。俺と一緒にいるところを見つかれば、お前も恐らく殺されるぞ」

伝説として広く知られているムパビスの種族の特性とは、他の種族の女との間に子を作ると破壊と殺戮をもたらす怪物が生まれてくるというものである。
そうである以上、もしも共にいるところを誰かに見つかったとすれば子を孕んでいるかもしれないという疑念があるセペレナも共に殺されるだろう。
ただでさえまだ幼さを残した少女が過ごすには向いていない場所であるし、彼は街に帰るように勧める。

「嫌よ。貴方達の種族に伝わるおとぎ話や昔話のようなものは無いの?」
「あるかもしれん。俺は聞かされていないが」

しかし、即座に拒絶するセペレナ。
目的も果たさずに帰るのであれば、わざわざ苦労してこんなところまで来るはずがない。
そんな彼女に対して知らないと答えると、立ち上がったムパビスは少女に背を向けて立つ。

「どうしたの?」
「――そこでじっとしていろ」

訝しげに尋ねたセペレナに彼が有無を言わさぬような口調で告げると、異変を感じ取った彼女は口をつぐむ。
一点を見つめたムパビスは、懐から先程獣の解体のために使った刃物を取り出す。
彼の耳は、遠くから枯れ葉を踏む音を聞き取っていた。
しばらくして、暗褐色の体毛に覆われた四足獣が枝葉を掻き分けて姿を現す。
先日ムパビスが狩って食料にしたのとは別の獣であり、その体躯は彼の腰くらいにまであるくらいに大きい。
凶暴な肉食獣であるそれは、周囲に残っている血の匂いを嗅ぎ取ってやってきたのである。
獲物の姿を認めた獣は巨大な牙を覗かせながら唸り声を上げ、びりびりと周囲の空気を震わせた。
セペレナは恐怖を覚えて反射的に縮こまるが、自分を守るように彼我の間に立ってくれている存在がいることを思い出して少しほっとする。

「きゃあっ!」

それまでゆっくりと歩いていた獣が地を蹴って突進してくると、大質量が自らへと迫ってきた少女は思わず悲鳴を上げる。
いくらムパビスが守ってくれていると分かっていても、怖いものは怖いのである。
思わず目をぎゅっとつぶるセペレナ。
するとその前方でムパビスは左手で頭を掴んで突進を受け止め、吹き飛ばされそうになる身体を力ずくでその場に押し留める。
五本の指が獣の顔面を掴み、握力の限りに握り締めて衝撃を横に受け流した。
それによって生まれた隙を突いて、彼は無防備な喉笛を一気に真横に引き裂く。
致命的たり得るには十分な程に深い傷口から、迸るおびただしい量の血が身体に降り注ぐ。
頭から鉄の匂いのする生温かな液体に塗れながら、ムパビスは力の抜けていく獣をその場に投げ捨てた。
取り戻された静寂。
どくどくと溢れ続ける血が、枯れ葉とその下の土とを深紅に染めていく。

「こ、この山にはこんなのが沢山いるの?」
「いや、普段は向こうの山に住んでいて滅多にこちらには来ないはずだがな」

動かなくなったことを確認すると、恐る恐るセペレナが尋ねる。
元々お嬢様育ちなので野生動物の名前など知らなかったが、たまたま出会わずに済んだだけで一人でここまで歩いてくる時に出くわしていたのかもしれないと思うと彼女は戦慄を覚えていた。
こんな猛獣が何匹もいるのならば、恐ろしくて仕方が無い。
それに対して、そう言って南の方向にある別の山を指差すムパビス。
幸いにもと言うべきか少女の懸念は杞憂であり、この山ではほとんど見かけることのない獣だった。
第一、火をそれ程恐れないあの獣がうろうろしていたとしたらムパビスも到底暮らすことが出来ないのである。
彼が一人きりで日々を送れてきたのは、焚き火の周囲で眠っている間の安全を確保出来ているが故のことだった。

「これで帰る気になったか? 街の近くまでなら送っていってやるぞ」
「……か、帰らないわ」

復讐に身を焦がしているセペレナであっても、或いは身を焦がしているからこそこんなところで無駄死には出来ないと本能が強く訴える。
彼女の体内では、まだどきどきと強く高鳴る胸の動悸が収まっていなかった。
護衛されて街に戻るという選択肢は非常に魅力的に思えたけれど、少し揺らぎながらもその提案を拒絶する。

「こんなところにいても辛いだけでいいことなんて無いぞ」
「言ったでしょう。私は貴方に抱かれたいの。……って、あら」

怯えの色を隠しきれないながらも強気な口調で返したセペレナは、男の両足の付け根部分の毛皮が盛り上がっていることに気付く。
戦いによる興奮によって、本能的に男性器が屹立していたのである。
異性がそうした性質を持っていることはこれまでの経験則的に彼女も知っていた。
心の中にある恐怖を誤魔化すように、少女はにやりと笑みを浮かべて意味深げな視線を送る。
幼さを未だ濃く残した容姿には似合わぬ、牝を感じさせるような艶やかな眼差し。
相手がどこを見ているのか気付いたムパビスは誤魔化すように身をかがめると、獣の解体作業を始めようとした。
だが、立ち上がったセペレナはおもむろに近付いていくと大きな背中にしなだれかかるように首筋に腕を回す。
身を寄せると、乾いて衣服に染み込んだ血による生臭い匂いが鼻をつく。
しかし、それも今までに嗅いだことのないものではない。
特に不快感も覚えることもなく、彼女はムパビスの衣服を弄る。

「ふうん、結構大きいじゃない」

相手は力の弱い少女なので振り払うのは簡単だったが、それをすれば怪我をさせてしまうかもしれない。
それ故に抵抗することを躊躇した隙に、セペレナの指は脚衣の上から屹立を撫でた。
体格に似つかわしいような、彼女の小さな手には収まりきらないくらいの大きさのもの。
妖しい手つきが蠢くと、薄い毛皮越しに刺激が施されていく。

「く、やめ……っ」

溝のようにになった部分をくすぐる動きは実に的確であり、思わず声を上げるムパビス。
自慰行為以外で男性器に刺激を受けたことがない彼にとっては、あまりに巧み過ぎるものだった。
同時に、少女が初めてではないことや幼さに似つかぬ経験を持っていることが理解出来る。

「ここはそう言っていないわよ……なんて、少し下卑過ぎる言い方かしらね」

自分よりずっと体格のいい相手がされるがままに悶えている様子を面白がりながら、セペレナがくすくすと笑い声を零す。
蝶よ花よと何不自由無く育ち、本より重いものを持った経験さえ無かった少女が突如として天涯孤独の身になったのである。
右も左も分からず、力仕事など出来ない少女が生き延びるためには時として若い身体を引き換えに金銭を得なければならなかったのは必然だろう。
誇りを捨てて物乞いをしたり、異性を相手に身体を売ったりして口を糊していた彼女は自然と高い技巧を身につけていたのだ。
自らを買った男達に仕込まれた性技を以てすれば、性経験が皆無であるムパビス一人を翻弄するくらい簡単なことである。
憎しみだけに突き動かされて宛てもなくさ迷った日々は、一人の無垢な少女を娼婦へと変えていた。
セペレナの指には、屹立がびくびくと震える感触がよく伝わってくる。
どうにか与えられる快感に耐えようとするものの、それさえ彼には困難だった。

「ふふ、素直になったら? 私を抱きたいでしょ?」
「だ、めだ、そんなことをしたら」

手の動きを止めないまま、後ろから耳元に顔を近付けた少女が吐息混じりに囁く。
わざと低めに発声された言葉は、直接脳に響くようにムパビスの理性に染み込んできた。

「いいじゃない。貴方は死なないし、気持ちよくなれるのよ?」
「お、お前もっ、死ぬんだぞ……っ」

どうにか拒絶した彼だけれど、なおもセペレナは甘い誘惑を囁き続ける。
伝説にて語られる、その種族が邪悪な存在として忌み嫌われたもう一つの理由。
人間の女から産まれ落ちたモノは、あらゆる全てを貪り破壊するものの父たる種族にだけは何もすることがないのである。
他種族から見れば、彼らが怪物を使役して自分達に敵対しているように感じられるのも当然のことだった。
逆に言えば、伝説を信じるならばたとえ怪物が全てを無に帰そうともムパビスには何も害は無いのだ。
与えられた刺激によって屹立の先端からは先走りが零れ始め、脚衣の内側を濡らす。
それによって滑りがよくなったことで、少女の手淫は男に更なる快感を与える。
徐々にぐらついていく理性。
しかしながら、ムパビスは未だ本能に流されてしまうことなく踏み留まっていた。

「あら、心配してくれてるのね。それじゃ、私が口でするのはどう? 助けてもらったし、お肉も食べさせてくれたし、貴方にお礼をしたいの」
「それなら、構わん、が……」

一瞬呆れたような表情を浮かべると、根負けしたというように溜め息を吐いて提案するセペレナ。
口淫であれば子を孕んでしまう心配は無いし、それでいて欲望は発散することが出来る。
更には恩返しという大義名分までも与えられれば、行為に対しての抵抗は大きく薄れていくこととなった。
そして一度受け入れてしまえば、快楽を望む本能に理性は流されていくことになる。
強張っていた全身の力が目に見えて緩むと、セペレナはにやりと笑みを深めた。
それは本心ではなく、ムパビスの理性を上手く突き崩すために考えたに過ぎない言葉。
かつては嘘を吐くことなどまず無かった少女だが、孤独な日々は自然と内心を偽る術を身につけさせていた。

「脚衣を下ろして」
「分かった……!」

彼女が身体を離すと、言われるがままに脚衣を下ろす男。
すると、中からはぴんといきり立ったものが姿を見せる。
セペレナのか細い手首と然程変わらないくらいの太さを誇るもの。
以前の彼女であれば、圧倒的な威容を目の当たりにすれば悲鳴を上げていただろう。
だが、今は余裕の笑みさえ表情に湛えてそれを見つめていた。
相手の足下に跪くと、セペレナは目の前に突きつけられるようになったものに舌を伸ばす。
先端をちろりと舐めると、熱いものがびくりと震えた。
僅かに苦みのある味が舌先に感じられるものの、眉を顰めることもなく舐め回す。
自分を買った男達に仕込まれ、最早すっかり身についた技巧。
わざと相手に見えやすいような動きは男を視覚的に喜ばせるためのものであり、どちらかと言うと快感を与えるというよりも興奮を煽ることが目的だった。
上目遣いで見上げられて、まだ幼さを残した美少女を跪かせているのだという背徳感もあってムパビスのなけなしの理性は更に揺らいだ。

「ぐ、うぁ、く……っ」

ちろちろと先走りを舐め取る少女の舌がそれが出てくる場所を刺激すると、歯を食いしばっていても情けない声を零してしまうムパビス。
手で毛皮越しに撫でられているだけでもあれ程気持ちよかったというのに、ましてやそれが口によるものに変わればなおさらである。
そんな反応を愉しむように、セペレナは更に鮮やかに赤い舌を絡みつかせていく。
決して少なくはない経験を重ねてきた彼女からすれば、性交をしたことのない異性を弄ぶことくらい簡単だった。
その都度、屹立はびくびくと跳ねてどれだけ舐め取っても尽きることのない多量の先走りが分泌される。
やがて付け根の方向に頭を移動させた彼女は、屹立に左手を添えて固定すると裏側を下から舐め上げていく。
そこが男性の弱点であることを、セペレナは経験則として熟知していた。
先端と比べて更に敏感な場所をまるで意志を持った生き物のように這い回る感触に、ムパビスは否が応にも高められていく。
舌を大きく伸ばしながらひとしきり舐め続けると、少女は自らの唾液で少し潤った唇を開ける。
やはり相手に見せつけるようにわざと大きく口を広げたセペレナは、木々の隙間から差し込む日光を受けててらてらと輝くものを頬張ってみせた。
白い頬の粘膜が内側から押されて、その部分だけ屹立の形に盛り上がる。
大きさ故に、全てを口腔に含みきることは出来ず半ばまで咥えたところで先端が喉にまで達した。
それによって呼吸が妨げられ、少し苦しそうな様子を見せる彼女。

「ぅむ、ふ……」

しかし、慣れている少女は息が苦しいからといって行為を止めることはない。
口淫という、高貴な育ちの令嬢であればまず考えられないような行為。
だが、かつて持っていた誇りや気心を捨てた今の彼女には何の躊躇も無かった。
復讐のためには、どんなことをしてでも生き延びなければならない。
その一念で、性器を口に咥えて奉仕するという何不自由なく暮らしていた頃ならばあり得なかった屈辱的な行為さえ覚えてきたのである。
するからには少しでも上手に、より多くの快楽を与えられるように。
果たしてどこを刺激すれば気持ちいいのかを熟知しているセペレナは、舌先でくすぐるように段差の部分にちろちろと左右させる。
鼻に抜けるような声が小さく零れ、ムパビスの下腹部に熱い息がかかった。
同時に頬を少しすぼめ、セペレナは赤子が母乳を飲もうとするかのようにちゅうちゅうと大きなものを吸う。
彼女による巧みな奉仕に、快楽への免疫の無いムパビスは徐々に追い詰められていく。
贅肉一つ無く見事に六つに割れた腹筋に力を込め、彼はこみ上げてくるものを抑え込もうとする。

「ふふ、どう? 気持ちよかった?」
「出、させ……!」

何日も発散しておらず溜まったままだった欲望は、それ故に絶頂を迎えるのも早い。
男性の本能とも言えるような衝動。
暴発寸前にまで高められていよいよ久々の射精を迎えようとした男だったが、セペレナはぎりぎりのところで口を離してしまう。
当然、とどめとなる一撃が無ければ絶頂は儘ならない。
生殺しのような状態にされて、屹立の根本辺りで渦巻いたままの熱い欲望にムパビスは続きを懇願せずにはいられなかった。

「貴方と一つになりたいの。頷いてくれたら、私の中でいくらでも出させてあげるわ」
「駄目、だ、それだけは」

セペレナは男性器の先端に触れるか触れないかというぎりぎりのところで唇を開くと、そう囁く。
言外に、頷かなければ射精はさせないという意図を籠めた言葉。
追いつめて余裕を失わせてしまうことで、性交を拒む理性を突き崩してしまおうという思惑だった。
絶対的な経験の差があるが故に可能な行為。
少しの刺激でも射精してしまいそうな状態にある屹立は、その際に吐息が幽かに掛かるだけでびくんと大きく跳ねる。
しかし、それでもなおムパビスは辛うじて拒絶の言葉を紡ぎ出す。
もしもここで頷いてしまえば、彼自身以外の全てが破滅を迎えることになるのである。
断じて世界にそんな災厄をもたらす訳にはいかないという良識が、ムパビスのなけなしの理性を支えていた。

「仕方無いわね。それなら、貴方がいいって言うまで何度でもこうしてあげる。どれくらい耐えていられるかしらね」

魔的とすら表現しても構わないくらいにひどく妖しい笑みを浮かべたセペレナは、少し嗜虐性の混じった口調で宣言する。
自身が悪魔と呼ばれている種族であるムパビスであったが、今は相手こそ本当の悪魔なのではないかとさえ感じていた。
着ていた粗末な服の胸元に右手を掛ける少女。
それを自らずらすと、まだ成長しきっておらず然程大きくはない膨らみが半ばまで覗く。
近くで見てみればかつてはきめ細やかだった肌は少しかさつき、さらさらと美しかった長い髪も潤いが随分と失われていた。
体重も随分と落ちていささか痩せすぎという印象を見る者に与え、顔立ちを飾っている化粧品の質も昔使っていたものとは比べるべくもない。
裕福な暮らしを送り使用人達の手で丹念に手入れされていた頃と比べれば、細やかな部分で瑞々しさが失われてきているのは否めないだろう。
しかし、それでもなお母から受け継いだセペレナの美しさには微塵の揺らぎも見られなかった。
視覚的な興奮を煽られ、ムパビスはうろたえたように視線を逸らす。
今まで女性とは無縁の暮らしを送ってきた彼にとって、少女の肢体はあまりにも眩過ぎた。

「目を逸らしちゃうなんてひどいわ」
「ぅ、ああ」

それによってどうにか胸元の誘惑からは逃れることが出来た男だったが、セペレナはわざと拗ねたような声色を作ると立ち上がって身を寄せる。
胸を押し当てるようにしてしなだれかかると、左手で男の固い脚を撫でる。
日常的な山歩きによって鍛えられ、脂肪の代わりに多量の筋肉がついた太い腿。
彼女はその逞しい感触を楽しみながら指先でくすぐる。
普段以上に感覚が過敏になっているムパビスは、それによってまた声を上げてしまう。
敢えて限界にまで追い込まれている場所には触れずに焦らすという手法は、耐え難い程のもどかしさを彼にもたらした。
無論のこと、それもセペレナの計算のうち。
母のように胸が大きかったらもっと簡単なのになどと考えながら、彼女は慣れた手つきで愛撫を続ける。

「駄目よ。私がいるのに一人でしようとするだなんて失礼にも程があるわ」
「す、すまん」

そう言って、セペレナは頬を膨らませる。
少女がしてくれないのならば、いっそ自分でしてしまえばいいのだという閃き。
脳裏に浮かんだそんな解決策に従ってムパビスは自慰の要領で欲望を放ってしまおうとするが、事前に察知した少女は両手でその右手首を掴む。
彼から見て左側に立っているセペレナは自らの身体で相手の左腕の動きを妨げると、屹立には手が届かなくなった。
無論のこと、彼我の筋力の差を考慮すれば強引に振り払ってしまうくらい簡単なことである。
だが華奢な少女を力ずくでどうこうすることには心理的な抵抗があったし、散々与えられた快楽のせいで普段よりも力を入れ辛い状態にあった。
セペレナの剣幕に気圧され、男は思わず謝罪してしまう。
相手が拒む理由を分かっていても、せっかく誘惑しているのを無視して自らの手で慰められるというのは自信を傷つけられる行為である。
腹立たしさを覚えていたのは単なる演技ではなく本当のことであり、意趣返しとばかりに彼女は右手を離してムパビスが纏っている衣服に手を掛けた。
身長差故に、双方共に立っていた場合セペレナの頭頂は相手の肩にさえ届かない。
小柄な彼女のことを更に幼く感じさせる二人の対比。
目前には衣服の前部が留められていないために相手の胸元が覗き、毛皮を左右にはだけさせたセペレナは露わになった胸の先端を爪で軽く擦ってみせた。

「ぅあっ!?」
「ふふ、殿方でもここは感じるのよ」

意趣返しとばかりの行為に、ムパビスは敏感になった状態の全身を大きく震わせる。
何も少女が学んできた奉仕は口淫だけではない。
どうすれば自分を買った男を満足させられることが出来るのかを探る中で、セペレナは周囲の素肌と比べて乳頭がより敏感であるのは男性も同じであることを経験則的に知っていた。
即ち、自分が胸を愛撫された時のことを思い出しながら相手の反応を探れば快楽を与えられるということ。
尖った爪の先で痛みを感じない程度に擦り続けていると、小さな乳頭は次第に固さを増してくる。
こりこりとまるで弾くように巧みに弄ぶ彼女。
腕力であれば到底敵うはずもない相手が為す術もなく刺激に翻弄されていることに、セペレナはたまらなく愉悦を覚える。
どれ程全身を鍛え上げようとも、性器を鍛えることは出来ない。
そうであるからには、どんな屈強な人間であっても痛みに対しては強くとも快楽に対しては脆弱なもの。
自らが奉仕しなければならないということにかつて当然のものとして抱いていた誇りをどうしようもなく打ち砕かれた彼女は、身につけた手管を使って主導権を握り相手に情けない声を上げさせることに愉しみを見出すようになっていた。
そうして、ひとしきり愛撫を続ける。
嗜虐的に唇の端を吊り上げて妖しい笑みを浮かべさせたセペレナは、唇を近付けるとすっかり尖りきった乳頭に舌をちろちろと這わせた。
ねっとりと嬲るように、生温かな舌先で執拗に転がされる。
同時に、時間が経ったことで少し余裕を取り戻してきたムパビスの男性器を空いている左手で軽く握った。
小さな手のひらには収まりきらないものを逆手に握ると、未だ乾ききっていない先走りと唾液とを潤滑油として前後に扱く。
くちゅくちゅと小さな水音が立つ。
直接刺激を与えられて、再びこみ上げてくる熱い滾り。
絶頂寸前にまで本能を発散させることが出来なかったという問題は何も解決していないのだから、それも当然のことだろう。
同時に複数の箇所から与えられる快感により瞬く間に追いつめられることとなったムパビスだったが、少女はまたしても寸前で行為を止めてしまう。

「ねえ、さっきのお願いは覚えてる?」
「……っ!」

上目遣いで見つめると、セペレナは笑みを浮かべたまま尋ねる。
無論、忘れているはずがなかった。
達したくても達せられない。
頷きさえすれば、きっと極上の快楽と共に思う存分滾りを解き放つことが出来るだろう。
そんな本能からのの誘惑に晒されてムパビスの内心は大きく揺れたものの、頷いた場合の結果を思い描くことでどうにか横に振る。

「残念だわ、私は貴方に抱かれたくて仕方がないのに」

なかなか欲望に堕ちることのない男の理性の強固さにうんざりしたような思いを感じながらも、それを顔立ちには微塵も出すことなくセペレナは表情を繕う。
嫋やかな色を崩さぬままに囁くと、彼女はすっかり力が抜けている右手を取って下腹部へと導く。
かつて纏っていたようなドレスとは全く違う、ただ太ももの半ばまである長めの服を一枚着ただけの粗末な格好。
もし強めの風に吹かれれば、簡単に下着が見えてしまうだろう。
男の欲情を駆り立てやすい装いは、セペレナが自ら裾を少しめくり上げただけで中身が露わになる。
幼さを残した華奢な少女にはいささかアンバランスな黒い布地。
しかしそれは、だからこそ背徳的な印象を見る者に与える。
視界に入ってきたものを前に、思わずごくりと喉を鳴らすムパビス。
客観的に見れば単なる一枚の布地に過ぎないものは、しかし男にとっては特別な意味を持っていた。
ゆっくりと近付いていったごつごつと太い指が、下着の正面の部分へとそっと触れる。
すると、指先に伝わる湿り気。
先程の言葉が偽りではないと主張するように、少女の秘部は既に潤い始めていた。
無論のことそれは目の前の相手が愛しいからではなく単なる条件反射のようなものだったけれど、それがムパビスに分かるはずもない。
自分が布越しにとはいえどこに触れているのかを理解すると、彼は意志とは無関係に手を離せなくなる。
セペレナがまるで固い石像の一部になってしまったかのように硬直した男の指を手ごと動かして自らのそこをなぞらせると、くちゅりと水音が立った。
注意を向けていなければ聞き逃していてもおかしくないくらいに小さな音。
しかしムパビスの耳はそれをはっきりと聞き取り、頭の中に響き渡る。

「んっ、ぁ、ふっ」

セペレナが吐息と声とを零す。
秘部を擦られて刺激を与えられれば、快楽を覚えるのは必然的なことだった。
潤った粘膜が軽く刺激される。
指先が敏感な突起の上を通ると、甘く蕩けた声が少し高くなった。
あたかも自分で自分を慰めるように、彼女はムパビスの手を使って快楽を得ていく。
その都度奥からは蜜が零れ、下着の布地は含んだ水分によって肌にぺたりと貼りついていった。
無論のこと、指を使われているムパビスとて平然としてはいられない。
女体に触れたことが無いが故にどうしていいか分からず、頭が真っ白になった彼はされるがままになる。
そんな様子に、セペレナは快感を愉しみながらも過去の行為を思い出す。
彼女はこれまでの放浪の日々の中で、異性を抱いたことが無いという若い少年の相手をしたことも皆無ではなかった。
その際にもこうやって手を取ってどのようにすれば相手に快楽を与えられるのかを教えたものだが、彼らは皆今のムパビスと同じで何かを覚えるどころではない様子だった。
そういった場合には一度達しさせることで落ち着かせることが多かった(性経験が無い相手を絶頂に導くくらいセペレナには簡単なことである)ものの、現在はわざと射精を許さず余裕を奪っている状態なのである。
まだ無垢な少年を翻弄するのは嗜虐性をくすぐられる行為であり楽しかったが、自らより歳上であり体格もいい男がそれと同じような反応を見せていることはなおのこと面白かった。
それを興奮の材料として、彼女は手を動かさせる頻度を速め更に快楽を貪っていく。
達することを許されずに焦らされた状態のまま、相手は思う存分に乱れている。
中途半端に高められたままのムパビスの屹立は、艶やかな姿を前にしてぎんぎんと痛いくらいに滾った。
もしも粘膜を布越しにとはいえ擦っている指先が代わりに男性器であったならば、というような想像をついしてしまう。
異性の秘部に屹立を触れさせたいという本能的な誘惑はなかなか抗いきれるものではなかった。
無論のこと、そうした迷いはセペレナには手に取るようにお見通しである。
孤独な山奥という過酷な環境で暮らしてきたことによる精神の強固さはいささか誤算だった彼女だが、それももう限界が近いだろうという手応えを得ていた。
ひとしきりそれを続けると、そろそろいいだろうとセペレナは掴んでいた手を離す。
自分が感じる場所を誰よりも知っているのが自分自身であることは言うまでもない。
的確な刺激によってあれ程白かった全身の肌はすっかり上気して朱鷺色に染まり、首筋はしっとりと汗に濡れている。
そしてぴったりと寄せていた身体を離した彼女は既に蜜を吸いきり、本来の役目をほぼ果たしていない下着に手をかけた。
ゆっくりとそれを脱いでいくと、思わずムパビスは手の動きを目線で追ってしまう。
以前仲良くなった酒場娘に教わった、見ている異性の欲情を煽り立てるような脱ぎ方。
本来は客の前で踊って金を得るためのものであるが、少女はそれを性交の際に相手を翻弄するための技術の一つとして応用していた。
相手の反応を窺いながらわざと焦らすように脱ぎ終えると、最早何にも隠されていない秘部が露わになる。
今までに何人もの男を受け入れてきた場所は、異性を待ち焦がれるようにうっすらと口を開けさせていた。
少し開いた入り口は誘うようにひくひくと蠢き、奥から溢れ出した蜜がぽたぽたと垂れて地面を覆う枯れ葉の上に滴る。
頭の中で想像したことは何度もあれども、実際に目にするのは初めてである場所。
じっと見つめたまま、ムパビスは目を離せなくなる。

「抱いて、ムパビス」

軽く秘部に指を二本添えて広げてみせると、セペレナはそう囁く。
既に濡れそぼった鮮やかな色の粘膜が、蜜に焚き火の明かりを反射させててらてらと輝いた。
彼女のような美少女に誘われれば、誰もが胸を高鳴らせずにはいられないだろう。
それはムパビスも例外ではなく、あまりに淫らな誘惑を前にして思わず一歩前に踏み出していた。
散々生殺しにされ続けたことで無数のひびに覆われたような状態になっていた心の城壁。
初めて名を呼ばれたことが最後の止めとなり、彼の理性は遂に崩壊する。
大きな歩幅ですぐに彼我の距離を詰めたムパビスは、少女の小さな身体を抱き締めていた。
セペレナは抗うことなく逞しい腕に身を委ねると、見事に六枚に割れた腹筋の中心に指を這わせる。
そのまま、二人は少しの間抱擁を続けた。

「約束通り、とっても気持ちよくしてあげるわ。そこに寝なさい」

これでようやく望みが叶うのである。
愉悦を覚えてくすくすと笑うと、彼女は寝処の上に横になるように相手に指示をする。
妊娠さえ出来ればよいのだから別にされるがままに犯されても構わないのだけれど、過去の記憶からしてどうせ経験の無いムパビスはここから先どうすればいいのか分からないだろうと考えてのことだった。
セペレナの推測は当たっており、次に何をすればいいのか混乱していた彼は操り人形のように言われるがまま少女の言葉に従う。
最早崩れ去った理性は機能しておらず、代わりに彼を動かしているのは性欲という名の本能。
快楽を得られると聞けば、それに逆らうことなど出来なかったのである。
どこか虚ろな目をしたムパビスが寝処で仰向けになると、少女は丸太のように固い太ももの上に跨った。
今までの行為によって互いに散々快楽を得ており準備万端な状態であるのだから、これ以上の前戯など不要なのは明白だった。
膝立ちになって天を衝こうとするかのようにぴんと聳える屹立の上に移動すると、セペレナは互いの粘膜同士をそっと触れ合わせる。
そして秘部の入り口を左右の人差し指で広げると、そのまま腰を沈めていった。

「ぁ、はあ、んんんっ!」

透明な蜜で潤いきった場所は、巨大な侵入者をすんなりと受け入れていく。
華奢な体格に比例するかのように狭い粘膜を左右に強引に押し広げて男性器が入ってくると、彼我の摩擦によってセペレナの頭には大きな快感が奔る。
散々ムパビスのことを焦らしていた少女であったが、鏡合わせのように彼女自身もまたそれによって焦らされ昂らされていたのだ。
思わずしなやかな両脚に籠めていた力が弱まると、必然的な物理作用として支えを失った肢体は重力に従いすとんと落下する。
必然的に根元まで一気に貫かれることとなり、串刺しにされたかのような錯覚を感じる程の衝撃が駆け抜けてセペレナの背筋は思わず大きく仰け反った。
反射的にぎゅっと全身に力が籠もると、同時に彼女の秘部が収縮して粘膜が異物をきつく締めつける。

「ぅお、ああぁ!」
「ふふ、出しちゃったのね。でも、もっともっと出させてあげる」

元々少しの刺激で達しそうになっていたムパビスは、まるで搾り取るように締め上げられてひとたまりもなく射精してしまう。
性経験の無い彼には、異性の秘所が与えてくる刺激はあまりに強過ぎるものだった。
普段自らを慰める時とは比べ物にならない程の快感に、大きく目を見開いて声を上げる。
溜まりに溜まった分だけ多量な白濁が放たれ、既に本来の存在意義としての機能を果たし始めている少女の子宮へと向けて注がれていく。
いつまでも止まることなく、まるで滝のような勢いで重力に逆らって奥にまで打ちつける精液。
秘部にはっきりと感じる熱さに、セペレナはこのまま怪物を孕むことを想像して恍惚とした表情を浮かべた。
しかし、当然のこととして一度だけの行為では必ずしも妊娠するとは限らない。
よりその確率を上げるために、彼女はなおも行為を続けることを宣言した。
ようやく射精が終わると、あまりの万斛さ故に結合部の隙間からは狭い秘部の中に収まりきらなかった白濁が蜜と混ざり合いながら零れ落ちてはぽたぽたと地面へと垂れる。
勿体無いとばかりにきゅうと腹筋に力を籠めると、それによりまた締めつけが強まった。
絶頂の直後で敏感になっているというのに刺激を強められて、ムパビスの喉からは思わずまた悲鳴のような声が零れる。
だが、限界に達しているのは彼だけであって一方のセペレナはまだ余裕を保っていた。
相手の声に嗜虐的な部分を刺激された彼女が小さな臀部を軽く振ってみせると、少し萎びかけていたものに強制的に刺激が与えられる。
そのままくびれた細い腰を蛇のようにくねらせると、次第に先程までのはちきれんばかりの固さを取り戻させられていく。
自らの体内でまた大きくなっていくのを感じながら、少女は身体を少し前に傾けて相手のがっしりとした胸板に手をついた。
そして両腕に軽い体重を預けると、ゆっくりと腰を上下させ始める。

「ぁん、いい、わっ」

膝の曲げ伸ばしを利用した規則的な動き。
先端近くまで引き抜いてから根元まで一気に沈めるような抽送を繰り返す都度、じゅぷじゅぷと水音が上がる。
巨大な質量が秘部の中を出入りする度に、奥からかき出された精液が粘膜の隙間から溢れ出す。
自分でも正確な数は覚えていないくらいの人数の異性と交わってきたけれど、その中でもムパビスのものはかなり大きな方だった。
しかしそんな長さや太さを持つものを平然と受け入れてみせているセペレナは、自ら腰を振って快楽を貪る。
すっかり性に花開かされた少女は、かつてははしたないと忌避していた行為を楽しむようになっていた。
傍から見れば、その肢体はあたかも弾んでいるように見えた。
ひらひらと揺れる衣服。
まだ周囲を飾る毛も生え揃っていないが故に、体勢的に二人の結合部はムパビスには丸見えの状態になっていた。
華奢な少女が白濁を零しながら腰を振っている光景はあまりに淫靡であり、射精したことで弱まっていた性欲が強烈に刺激される。
めちゃくちゃに欲望をぶつけたい。
次第にそんな本能的衝動が彼の脳裏を占めるようになる。

「貴方も、動いてっ」

そんな思いを見抜いたかのように、セペレナは誘うように告げる。
既に秘部への射精まで済ませてしまっているのだから、今更それを拒絶する理由は無い。
誘われるがままに、そして欲望のままにムパビスは腰を突き上げ始める。
下から激しく打ちつけられ、がくがくと揺さぶられる軽い身体。
肌同士がぶつかる音が周囲に響き、少女の声は更に高くなる。
力任せの動きには技巧など微塵も無かったが、けれども力強い動きはそれを補って余りあった。
山での暮らしで鍛えられた逞しい腰つきで突き上げる度、セペレナはまるでそのまま空に飛ばされたかのような浮遊感さえ覚える。

「ぁ、はあ、ん、ぁあ!」

根元まで勢いよく突き入れられる魁偉な屹立はあたかも頭頂まで蹂躙されているかのようで、彼我の粘膜が擦れ合う度に彼女は思わず頭を振る。
振り乱される長い髪、蝶が舞うようにひらひらと揺れる服の裾。
身体を支えていた太ももに力を入れていられなくなって相手の下腹部に体重を全て預ける形となり、朱鷺色に染まった首筋を玉の汗が一筋流れ落ちる。
だが、無論のことセペレナとてされるがばかりではない。
縦の動きとしては鞠が跳ねるように突き上げられるばかりになっていた彼女だが、その分相手の律動に合わせるように腰を前後に振って反撃する。
果たしてどこを刺激すれば気持ちいいのかを経験則によって知り尽くし、意志を持っているかのように的確に敏感な箇所を刺激してくる秘部。
一突きごとにきゅうきゅうときつく締めつけてくる粘膜に、ムパビスは強く歯を食いしばる。
絶頂の直後で敏感になっている男性器は、生きているかのようにうねって絡みついてくる襞の一つ一つの感触さえ判別することが出来た。
そして根元まで全てを押し込む度に、彼の屹立の先端には周囲とは違う少し固い感触が伝わる。
まだ成長途上である少女の秘部の奥行きは短く、長大なものはその果てにある内臓の入り口にまで到達していたのだ。
まるで壁に勢いをつけて体当たりをするかのように、或いは振りかぶった槍を勢いをつけて突き出すかのように。
丸みを帯びた先端部はこりこりとした子宮口へと何度もぶつけられる。
今までにもそこにまで届く程に長い男性器を持った相手と身体を重ねたことが無い訳ではないけれど、だからといって本来ならば誰にも触れられるはずのない内臓を叩かれて平気でいられるはずもない。
これまで幽かに笑みさえ浮かべながら快楽を楽しんでいたセペレナから、少しずつ余裕が失われ始める。
反射的に背筋を仰け反らせて細い喉をさらけ出すと、彼女は思わず目を大きく見開いた。
衝撃によって肺からは半ば強制的に空気が吐き出され、甘い声の中に吐息が混ざっていく。
その変化はムパビスからも見て取ることが出来た。
先程までは余裕たっぷりで為す術もなく翻弄されるだけだった少女が、本気で乱れ始めているのである。
自らの手によってそうなっているのだと考えると、彼は男性としての本能によって優越感のようなものを覚えた。
もっと激しく犯して乱れさせてやりたい。
普段であれば自分でも戸惑ってしまうような嗜虐的な考えが頭の中に浮かぶが、元より理性を振り払った状態にあるムパビスの精神は躊躇うことなくその思考に従う。
幸いにもと言うべきか射精したばかりで次の絶頂まで余裕を持てている彼は、少し身体を起こして両腕を伸ばすと細い腰をがっしりと掴んだ。

「ぁひ、ぃ、ああぁ!?」

柔らかな肌に、ごつごつと無骨な指が食い込む。
近くで比べればセペレナの脚と変わらないくらいの太さがある逞しい両腕にとっては、彼女の身体は片手でも容易く持ち上げられるくらいに軽い。
ムパビスは難なく少女の身体を持ち上げると、腰の動きに合わせて上下させた。
屹立を根元近くまで引き抜いた際には臀部を浮かさせ、逆に突き入れる時には自らの方に引き寄せる。
結果として二人の粘膜の摩擦は激しくなり、更なる快楽が二人にもたらされた。
腰が小さな臀部へと叩きつけられる度に肌同士がぶつかり合う衝撃音は焚き火が燃えるじりじりという音がかき消されるくらいに高く鳴り響き、同時にかき混ぜられる精液と蜜とがじゅぷじゅぷと水音を立てる。
まるで破壊槌が城壁を崩そうとするような勢いで子宮口を繰り返し突かれて、セペレナが上げる声はほとんど悲鳴に近くなっていく。
開いた唇の端から零れた唾液が頬を伝う。
内臓という本来誰にも触れられざる場所に到達させまいと秘部の粘膜は狭く収縮するものの、熱い肉塊はそんな抵抗をねじ伏せるように強引にこじ開けては侵入を続ける。
少女自身の蜜に加えて大量に放たれた白濁によっても十分に濡れそぼっている状況は、小さな肢体を蹂躙せんとするムパビスの側に有利に働いていた。
否が応にも彼へと移っていく行為の主導権。
相手が初めてであるにもかかわらず好きに犯されていることに屈辱を覚えるセペレナだったが、最早反撃をする余裕は残っていなかった。
まるで男性器を扱くための道具であるかのように、男は彼女の身体を自在に動かしては快楽を貪る。

「ぃぎ、ひあぁ!」

脳天まで貫かれている錯覚を感じる程に全身に奔り抜ける衝撃、子宮口を突かれる感触。
普段であれば苦しいと感じるような膨大な刺激の奔流を、発情しきった少女の身体は快楽として受け止めていた。
そして、その快楽そのものがあまりに膨大過ぎて苦しい。
やがて行き止まりを強引に突き破って子宮まで到達してしまうのではないかと思うくらいに激しい行為に、セペレナは何も考えられなくなる。
がっしりと腰を掴まれているが故に逃げ場などどこにも無く、華奢な身体は強制的に絶頂へと向けて高められていく。
大きく見開かれた目は焦点が合わずに虚空を見つめ、秘部からは大量の蜜が分泌されてはムパビスの下腹部を濡らす。
金色の髪は汗で肌に貼りつき、あたかも獲物を虜にした蛇のように喉元に絡みついている。
下から見上げる彼の瞳には、快楽に悶え狂うその姿はまるで淫らに踊っているかのように見えていた。

「ぅお、あぁぁ……!」
「駄目、ぁ、はあ、ひんん!」

最早完全に性交に溺れている男は、意味の無い唸り声を上げながらひたすらに少女の肢体を蹂躙し続ける。
セペレナも悲鳴じみた高い声を発し続け、重なる二人の声が本来静かなはずの森に響き渡っていく。
彼女が追いつめられていく度に、道連れにしようとするかのように苛烈になる締めつけによってムパビスもまた追いつめられていた。
いつかはしてみたいという男としての憧れを抱きながらも、生まれついた種族が故に一生することが無いだろうと思っていた行為。
けれども理性による戒めを解き放たれた今、彼の性欲は先程一度放ったばかりであるにもかかわらず射精を目指して狂ったように奔っていく。
出し尽くしたと思っていた熱いものが再び腹の底で渦巻き、少しずつ昇ってきているのが分かった。
日々の暮らしで自然と鍛え上げられた腹筋に力を込めてそれを抑え込もうとしながら、ムパビスは突き上げを更に激しくする。
まだ達するまいという焦燥は、逃さないようにしっかりと掴んだ身体から限界を迎えるまでの間に少しでも多くの快楽を得ようとさせていた。
険しい山奥で獣を追うことで並大抵のことでは尽きることのない体力を得た彼の息が、にもかかわらず乱れる。
本能に身を任せながら荒い息を吐く姿は、まるで獣であるかのようだった。
もっとも、獣のようであるという意味では一突きされるごとに思考が消し飛んで何も考えられない状態のまま口の端から唾液を零しているセペレナも同じである。
人の手の入っていない自然の中で、二人は野性的に交わり合う。

「もうっ、ぁああ、いっちゃ、ひぁっ、う!」

薬が量を過ぎれば毒になるように、性的な悦楽もあまりに度が過ぎればかえって苦痛である。
微塵も相手への気遣いが無い抽送は、もたらされる快楽が強過ぎて辛い。
その反面、痛いくらいの力で腰を掴まれているのさえ気持ちいい。
そんな矛盾の中で、思わず化粧によってうっすらと黒く彩られた彼女の目の端からは涙が流れ落ちた。
頭を振る度にぽたぽたと汗の粒が幾つも降る。
行為を重ねて多少は耐性がついていると言っても、この場においてはそんなものは意味をなさなかった。
この状況から解放されるために、もういっそ今すぐにでも絶頂を迎えてしまいたい。
達すまいと耐えることを完全に放棄したセペレナは、あたかも懇願するように限界を訴えた。
それに応えるかのように、ムパビスも最後の一瞬へと向けて奔り始めた。

「いひいぃっ、ああああぁぁっ!」

今までで一番の強さで腰が叩きつけられると、喉が枯れるのではないかと感じるような声を上げながら少女は遂に絶頂を迎えた。
根元から絞り上げられるような、ムパビスは痛みを感じるくらいの締めつけによってたまらず射精する。
どくどくと迸りを吐き出す質量。
子宮口に先端が触れた状態で白濁を放たれて、はっきりと打ちつけるのが感じ取れるその勢いによって追い撃ちをかけられる。
まるで釣り上げられた魚が跳ねているように、大きく弓なりに背筋をしならせながらセペレナはびくびくと全身を小さく痙攣させた。
秘部の中に再び満たされた精液を、達したことによって収縮した子宮の入り口があたかも啜るように吸い上げていく。
そのためか、二人の結合部から零れ出てくる白濁の量は先程の時よりも明らかに少なかった。
やがて奔流のような波が過ぎ去ると、強張っていた身体は脱力し始める。
細い腰を掴んでいた手を離すと、若干息を切らせながら寝処の上に四肢を投げ出すムパビス。
火傷しそうなくらいに熱く張りつめていた男性器は次第に冷め、固さを失っていく。
起こしていた上半身を支えられなくなったセペレナは重力に任せるままに肘を曲げ、荒い呼吸に合わせて上下している逞しい胸板へと体重を預けた。
木々は風に吹かれて枝葉を揺らし、焚き火はじりじりと揺れながら周囲を照らす。
今しがたまでの獣のようなまぐわいが嘘であったように、周囲には元通りの静けさが広がっている。
けれども、全身を濡らす汗と重なり合う熱い吐息の音とが確かに行為の余韻を残していた。
そのまま互いの体温を感じながら、二人は消費した体力を回復していく。

「まだ、終わってない、わよ……。約束通り、いくらでも出させてあげる」
「うお、やめ……!」

額に貼りついた前髪を払うと、妖しい笑みを浮かべさせてゆっくりと身体を起こすセペレナ。
ようやく全身に力が入るようになって、息を切らせながらもそう宣言した彼女は腰を軽く動かす。
秘部の中で柔らかくなっていた男性器は、その刺激に対してびくりと反応する。
悲鳴を上げるのは、今度はムパビスの番だった。
初めて味わった性交の快楽を前にして性根尽き果てたような状態になっていた彼にとって、今追い撃ちをかけられてしまうのはたまったものではなかったのである。
そんな様子を見下ろし、少女は嗜虐的に笑みを深めた。
経験も何も無い相手の技巧も何も無い激しいだけの行為によって達させられてしまったことへの屈辱、その意趣返しをしてやろうとセペレナは目論む。
自分よりずっと身体が大きく力の強いこの男を泣かせてやろう、そんなことを考えながら彼女はムパビスの言葉を無視して肢体を上下させ始めた。


――それから数時間が過ぎ、鬱蒼とした樹木の隙間から覗く太陽は天頂近くにまで昇っていた。
降り注ぐ白い光が二人がいる焚き火の周囲も照らし出す。
そこには気絶したように寝処の上でぐったりとしている黒い肌の男と、その傍らに立つ少女の姿。
何度も繰り返された性交がようやく終わりを告げていたのだ。
汗に塗れて光を照り返す肌を標高故の涼しい風が撫で、朱鷺色に熱く紅潮した身体を冷ましていく。
セペレナの長い金髪がさらさらと僅かになびいた。
今しがたまで挿入されていたものの形に開いたままの彼女の秘部からは、白く濁った液体が重力に従ってぽたぽたと零れ落ちる。
子宮や秘部の中には収まりきらないくらいに射精された精液が溢れ出してきていたのだ。
肩を軽く上下させながらも、セペレナは息を整えていく。
その整った顔立ちには既に余裕の色が戻っている。
母がかつて自分を逃がすために身体を重ねたのと同じくらいの人数を同時に相手にしたこともある彼女は、激しい交わりの後でも気を失ってしまうことなく動けるくらいの体力が自然とついていた。
いくら何時間も行為を続けていたとはいえ、一度に二桁以上の人数と褥を共にするのと比べればずっと楽である。
経験が無かったムパビスと違い、既に動き回れるくらいに回復していたのだ。

「さようなら」

そして、セペレナは寝処を見下ろすと何の感慨も浮かんでいない口調で告げた。
子さえ孕んでしまえば、もう男には用は無いのである。
そう言い残すと、少しふらつきながらも確かな足取りの彼女はムパビスをその場に残して立ち去ったのだった。








気だるい身体を駆らせながら誰にも邪魔されることなく山を降りたセペレナは、すぐにかつて暮らしていた都へと向かった。
数年ぶりに戻ってきた広大な街並みを、彼女は身体を売って貯めてきた金銭をはたいて買ったドレスを着て悠然と歩く。
無論のこと今の少女に買えるドレスは安物に限られておりかつて纏っていた上質なものとは比ぶべくもなかったけれど、それでもセペレナの母譲りの美貌を確かに引き立てていた。
今まではあまり目立つことのないように、わざと粗末な服を着て化粧も薄くしか施していなかったのである。
そんな彼女がきちんと化粧をして人並みの装いで歩けば、ただそれだけで美しさは噂となって瞬く間に都中に轟いた。
そしてそれは、国中から美女だと評判の女を集めさせていた王の元へも程なくして届くこととなる。

「今騒がれているのはお前で間違いなさそうだな」
「ええ、そうよ。私のことだわ、きっと」

粗末な宿屋に泊まっていたセペレナの元に兵が送られてきたのはすぐのことだった。
誰何に対して、自分の美貌の価値をよく分かっている彼女は自信満々に膨らみかけの胸を張る。
逃げも隠れもしない。
少女の堂々とした態度からは、そんな意志が伝わってきた。

「陛下がお前のことをお呼びである、ついてこい」
「優しく扱って頂戴ね?」

くすりと微笑むと、言われるがまま馬車に乗り込むセペレナ。
王宮へと向けて馬が動き始めると、かつて母がそうしたように抵抗一つすることなく連れていかれる彼女の身体を時折振動が揺らした。
都から何が何だか分からないうちに逃げ出した時のことを思い出して懐かしみながら、セペレナの整った顔立ちには艶やかな笑みが浮かぶ。
その表情は決して作ったものではなく、心からの感情の発露だった。
まだ両親と共に過ごしていた頃以来、久々に覚えた感情。
――それはようやく復讐を果たせるのだという歓喜。
燃え上がるような昏い衝動は、少女に大きな喜びを覚えさせていた。

「ねえ、入浴と着替えはさせてもらえるのよね? こんな姿では、失礼でとても陛下には謁見出来ないわ」
「ああ。既に用意されているから、それらを済ませてから陛下の御前に出ろ」
「よかった。少し心配だったのよ」

窓の外にいる兵に尋ねると、頷きが返ってくる。
令嬢として暮らしていた頃は専門の侍女によって身体の手入れをされていたセペレナは、それを生業とする人間の腕の良さをよく知っていた。
しかもいくら身体を売れば口を糊すには困らなかったとはいえ上質な化粧品を買うような資金も無かったとなれば、どうしても自分一人で身なりを飾ろうとしたところで限界がある。
いくらヒズベカ譲りの美貌には自信があるとはいえ、これまでの環境ではせっかくの素材を全て生かしきれなかったことを彼女は理解していたのだ。
記憶にある母の美しさにはまだまだ遠く届いていないし、あちこちから美女が集められているというのだから今の自分より見目麗しい者も王宮にはいるだろう。
復讐を果たすためには王に気に入られなければならないのだから、腕のいい者の手と最高級の化粧品によって更なる美しさを得ることが出来るのは好都合だった。
上品な振る舞いはヒズベカから教え込まれているし、旅の中で身につけざるを得なかった性技や話術には自信がある。
後は、国一番と謳われた母に少しでも近付くことが出来ればきっとどんな美女よりも王を夢中にさせてみせるという自負がセペレナにはあった。


王宮に着くと、言われるがままに少女は浴場の前へと案内される。
そこには婉美な侍女がセペレナの世話をするために何人か待っており、彼女は王が以前容姿に優れない女性を全員王宮から追放させたという話を聞いたことがあったのを思い出す。
今までは自分で衣服を着替えていた少女は、けれどもかつてのように動くことなくされるがままに任せる。
その振る舞いによって、彼女が元々高い身分の生まれであることが見る者にも理解出来た。
侍女達の手によって安物のドレスが脱がされると、痩せた白い身体が露わになる。
膨らみかけで身じろぎをしてもまだ揺れることのない胸、僅かに浮き出た肋骨。
柔らかな臀部は小さく引き締まり、これまでに重ねてきた行為を反映してか薄く毛に覆われた秘部の入り口は何もしておらずとも若干開いて中の粘膜をちらりと覗かせている。
全体的にいささか肉付きが足りていないとはいえ、もしも男性が目にすれば欲情を覚えずにはいられなかっただろう。
しかしこの場にいるのは女性だけであり、これといった反応を見せることなく淡々と作業が進められていく。
最後に靴を脱ぐと、下に敷かれている絨毯の柔らかな感触にここが王宮であることを改めて実感する。
扉が開けられて湯気が漂っている浴場に入ると、今はどうなっているか分からない実家のものよりも倍以上の広さがあることにセペレナは少し驚きを覚えた。
どんな状況であっても絶対に切らずに大切にしてきた長い髪が手に取られ、根元から丹念にすすがれていく。
常日頃から王によって集められた女性達の身体を洗い慣れている侍女達の優しい指使いで丁寧に頭を洗われていく心地よさに、彼女はうっとりと目を閉じる。

「ぁ、ん……っ」

洗髪が終わるのを待つことなく、両腕、胴体、そして両脚とそれぞれの部位が分担されて劣悪な日々の中で汚れた肢体が同時進行で清められていく。
胸の先端から秘部の入り口に至るまで敏感な場所であっても例外なく触れられて、彼女は思わず小さく声を上げた。
性に花開ききったセペレナの肢体は、幽かな快感でも火を点されてしまう。
けれども快楽を与えるためにしている訳ではない動きはそれ以上の刺激をもたらしてはくれず、彼女はもどかしさを覚えた。
白い肌が紅く染まり始めているのは、決して室内の温度が高いせいだけではないだろう。
同性であるが故に少女の状態に気付きながらも、特に反応を見せることなく洗い続ける侍女達。
やがて全身くまなく終わるとセペレナは侍女の一人が持った容器から汲まれた湯を浴み、全身に付いた泡が洗い流された。
川で水浴びをして身体や服を洗うのが常だった少女にとって、温かな湯を量も気にせずに使うことが出来るのは随分と久々のことである。
否が応にも、セペレナはこれまでのことを思い返していた。
まだ無垢だった日々を追想しながら、彼女は浴槽に浸かる。
縁をまたぐために脚を上げた際に動きに合わせて秘部の入り口が少し開き、鮮やかな色の肉がはっきりと露わになった。
腰を下ろすと、全身を包む温かさに思わず全身を弛緩させるセペレナ。
ほぐれたのは放浪による肉体的な疲労ばかりではない。
令嬢としての誇りを捨ててどんなにはしたないことであってもしなければならなかった日々によって積み重なった、精神的な疲弊。
憎しみに突き動かされていて自分でも気付かなかった疲れに初めて気付いた彼女は、凝り固まった心の力を少しだけ抜く。
セペレナが身じろぎする都度、ぴちゃりと音を立てて水面が揺れる。
徐々に火照っていく肢体。
まるで熾火のように子宮近くで快楽を求める熱が小さく燃え続けていることを感じながら、彼女はしばしの休息に耽った。


入浴を終えると、湯上がりで紅潮した肌を上質で柔らかな布で拭われていく。
隅々まで丁寧に水気を取り終えると、続いて始められるのは化粧とドレスの着付け。
一糸纏わぬ姿のまま堂々と立ったセペレナの周りを、先程までとは別の侍女達が囲む。
貴人の振る舞いなど何も知らない町娘であればどうすればいいか戸惑っただろうが、少女にとっては勝手知ったるもの。
軽く左足を上げると、手に靴を持った侍女がそれを履かせていく。

「下着は無いの?」
「無い方がよいとの陛下の仰せですので」
「なるほどね、分かったわ」

普通は靴よりも先に下着を穿かせるもの。
少し首を傾げたセペレナだったが、返ってきた答えに納得して頷いた。
まだ直接会ったことはないけれど暗君として知られるあの王らしいと思えたし、別に今更下着無しというはしたない姿になったところで何とも思わないのである。
踵部分が高くなりあちこちに宝石が散りばめられた透明な靴に小さな左足を通すと、逆も同じようにして履く。

「それは?」
「陛下のご発案で新しく作られた礼装でございます。両腕をお上げください」

続いて青い色の布が差し出されるが、再び首を傾げるセペレナ。
それは向こう側が透けている割合がかなり多く、一枚の布のように広げられていたのだ。
身に纏うものであることは理解出来たが具体的にどう着るのかは分からず、彼女は流石に戸惑う。
とりあえず指示された通りに腕を上げると、布を持った手が空いた脇を通って身体の前部に伸ばされる。
透けている部分を何も着けていない胸に当てると、そこから両横に伸びている紐を背中側に回して肩甲骨より少し下で結ぶ。
続けて腰の辺りにある紐が尾てい骨の辺りで同じように結ばれると、下部の布がスカートのように細い太ももから足首近くまでを覆った。
けれども両脚を一周するには少し長さが足りないが故に隙間が臀部の割れ目から斜め下にスリットのように開き、ひらひらと揺れる都度に白い肌が垣間見える。
少し目を凝らしただけで青い布地の向こうにはっきりと浮き彫りになる胸の膨らみの形とその先端、そしてうっすらと口を開けた秘部。
振り向けば背筋と臀部も視線にさらされるだろう。
王が自分の趣向に合わせて新たに考案したドレスは、薄過ぎて最早他者の視線を妨げるという役割を果たしていなかった。
特に羞恥を覚えることはなかったが、呆れたように自らの装いを見下ろすセペレナ。
あまりにも淫らな狭衣を着せ終えると、侍女は今度は彼女の長い金髪に触れる。
丹念に洗われたからか心なしか輝きを増しているそれが結い上げられていくと、ほっそりとした産毛一つ無い首筋が露わになった。
靴と同じように宝石がふんだんに使われた髪飾りが、照明を反射してきらきらと煌めく。
時間と手間が掛かることもあって放浪していた間はずっと下ろしたままだったので、髪を結われるのは随分と久々のことである。
身じろぎの度にさらさらと舞うことが無い分、すっきりとした感覚を覚えた。
最後に化粧。
浴場で落とす前にはせいぜい瞼の周りを黒く彩って大人びて見せる程度だったけれど、今は頬や唇にもきっちりと紅をさされていく。
元より素材は母譲りで抜群に優れているのである。
身支度が全て終わる頃には、少し幼さが残っているけれどヒズベカを彷彿とさせるように艶美な姿がそこにはあった。


案内されるままに、王の居室へと向かう。
王宮の中の様子を眺めながら、セペレナはここで母は一年弱の時を過ごしたのかという感慨を覚えた。
自分もまた出産までの間ここで日々を送ることになるのである。
満足に別れも告げられなかった母に、彼女は内心で改めて復讐を誓う。
後戻り出来ないくらいに落ちぶれたとはいえ、こうしてきらびやかな世界に戻ってきたからには両親と家門の名を汚す訳にはいかない。
淫猥なドレスを纏わされていても羞恥を見せることなく、背筋をぴんと伸ばして胸を張りながら堂々と廊下を歩くセペレナ。
歩く度にひらひらとスカート部分が揺れて臀部と両脚が剥き出しになる姿からは、にもかかわらずまさしく名家の令嬢らしい気品を感じ取ることが出来た。

「そうか、待っておったぞ。入るがいい」

セペレナと侍女達が部屋の前に到着すると、中から機嫌の良さそうな声が聞こえる。
侍女の手によって扉が開かれると、少女はこの国の礼法に忠実に従った振る舞いを見せながら入室していく。
彼女の瞳に写ったのは花をあしらった模様の壁紙、そして壁面にはいくつも飾られた裸の女性を描いた絵画。
家具としては数人が同時に並んでも十分に余裕があるくらいに大きな寝台と、やはり寝台としても使えるくらいに横幅のある長椅子が目を惹いた。
そして、長椅子の上には傲然と背もたれに体重を預けた男の姿。
果たして彼が誰であるのかは、たとえ初対面であっても現在の状況からして明白だった。

「セペレナと申します。お召しにより参りましたわ」

伸ばされた口髭、脂ぎって光を照り返している額、服の上からでもはっきりと分かる腹の肉。
飽食のせいか肥え太った王の形貌に、セペレナは本能的な嫌悪感を覚えて内心で眉を顰める。
けれどもそれを微塵も表に出すことはなく、彼女は嫋やかに微笑んでみせた。
まだ若い令嬢らしい一見清楚な気品と、それとは裏腹にどこか隠しきれずに漂っている妖しさ。
矛盾しながらも併存する二つの佇まいは、少女の魅力を更に引き立てる。

「おお、おお! 美しいではないか! よく連れてきた、タペソンには褒美を与えておけ!」

微笑みを浮かべた少女の姿を一目見るなり、レメグは興奮したように笑みを浮かべる。
ヒズベカの面影をどこか感じ取ることが出来る美貌、視線を隠すという役割を果たさないドレスによって露わにされている肢体。
彼はセペレナがかつて寵愛した王妃の娘であることを知らなかったが、それらを眼前にして無自覚に心を掴まれていた。

「こちらに参るがいい」
「畏まりました」

ずっと怨嗟を募らせてきた相手を目の前にして、セペレナの心の中では昏い炎が燃料を得たことで激しく燃え上がっていた。
微笑みを浮かべながらも、決して笑っていない翡翠色の瞳。
そんなことも知らず、上機嫌なレメグは華奢な身体つきを舐め回すように鑑賞しながら命じる。
――これから、憎くてたまらない仇に抱かれることになるのだ。
鳥肌が立ちそうなくらいの嫌悪感と憎しみとを押し殺しながら、覚悟を決めた少女は脂肪がついて太い腕に自らの身体を預けた。


程なくして、王はセペレナのことを王妃として迎えると宣言する。
ヒズベカが命を落として以来不在だった地位。
臣下に命じ急いで準備を整えさせると、レメグは少女のために盛大な式典を開いた。
華麗なドレスによって飾り立てられた姿は目を瞠る程の美しさで、出席した者は口々に賞賛の声を上げる。
参加していた使節によって噂は他国にまで広がり、新たな王妃の美貌は国境を超えて鳴り響いた。
だが、母とは違って年若いセペレナの容姿は未だ完成されてはいない。
今まで劣悪な栄養状況のせいで抑えられていた成長は毎日用意される豪勢な食事によって本格的に始まり、発育が不足気味だった胸や臀部にも程よく肉がついていく。
日々大人の女性らしい身体に近付いて美しさを増していく彼女に、王は更に夢中になっていった。
何としても孕ませて自分の子を産ませたい。
そんな男としての本能に忠実に、レメグは毎日のように王妃を閨へと連れ込んだ。
するとヒズベカの生前と同じように彼の放蕩は少し落ち着き、人々は新しい王妃のおかげだと歓喜した。
毎日のように褥を共にするうち、やがて膨らんでくるセペレナの腹。
子宮の中に何が宿っているのかも知らず、レメグは彼女とまだ見ぬ子とを慈しんだ。

「ねえ、陛下。お願いがあるの」
「どうしたのだ? 何でも言ってみよ」

すっかり夫を魅了してみせたセペレナは、ある日王の腕に抱かれながら甘えたような声で囁く。
腹部が丸みを帯びている身体には、相変わらず透けていて視線を隠す役割を果たさないドレスが纏われている。
最近は胎児をいたわって性交を控えているレメグは、代わりに触り心地が更に良くなってきた臀部を揉みながら上機嫌に尋ね返す。
少女の望みならば、彼はどんなことでも叶えるつもりだった。
そして、それを可能とするだけの権力も持っている。

「王子を国外に追放してしまって頂戴。他の女が産んだ子供がいるだなんて、耐えられないの」
「嫉妬しておるのだな、可愛い奴だ。早速そうさせようではないか」

頬を膨らませて不機嫌そうに言う王妃の様子に、レメグは顎の肉を揺らしながら笑って頷く。
かつては寵妃との間に生まれた我が子ということで可愛がっていたけれど、セペレナに夢中になった今はすっかり愛情と関心を失っていた。
故に、それで少女が喜んでくれるというのならば別に構わなかったのである。

「まあ、本当? 愛しておりますわ」
「もちろんだ。お前の望みなら何でも叶えてやろう」

日々静かに燃やし続ける憎悪の炎と、この男は何も知らないのだという嘲りにも似た愉悦。
それを覆い隠すように笑みを浮かべて、セペレナは偽りの愛を口にした。








かつてヒズベカが産んだ王子が隣国へと追放されてから十ヶ月あまり。
セペレナは身重のため性交をしない間も手淫や口淫で奉仕を続け、王の心を繋ぎ止めていた。

「ぅ、く……っ!」

天球が廻る度に少しずつ腹は大きくなり、いよいよ臨月が訪れる。
いつものようにレメグが暗く色を変えた胸の先端を吸って白い母乳の味を楽しんでいると、不意に苦しげに表情を歪めさせる少女。
王が急いで医師を呼ばせると、陣痛が始まったのだと診断される。
にわかに慌ただしくなる王宮。
以前から用意がされており、出産の準備が終わるのにそれ程時間はかからなかった。
寝台の傍らには、医師と共に産まれてきた赤子を抱くための布を持った侍女が立つ。
しばらくして破水が始まると、すっかり周囲に毛の生え揃った秘部からは羊水が溢れて白いシーツを濡らした。

「ふふふふふふ、あはははははっ」
「ど、どうしたのだ?」

額には苦しさのあまりに汗が幾粒も浮かび、こめかみの辺りを伝って流れ落ちる。
大きく膨らんだ腹の中では、何か得体の知れない怪物がこの世に産まれ落ちてこようと蠢いているのが分かった。
その予兆を感じながら、セペレナは大きく声を上げて狂ったように哄笑する。
熾火のように長らく心の中で燃やし続けてきた昏い復讐の炎が、ようやく果たされようとしているのだ。
少女は今にも訪れようとしている終末を実感して、大きな愉悦を覚えていた。
突然のことに、様子を見守っていたレメグは戸惑ったように尋ねる。

「豚以下の薄汚い脂肪の塊。鳥肌が立たないようにするのが大変だったのよ。貴方に抱かれる度、何回吐きそうになったか分からないくらい。ああ、でもここにいるのが自分の子だと思い込んでいる姿は滑稽で面白かったわ」
「な、何だと!?」
「残念だけれど、ここにいるのは貴方の子じゃないの。王宮に連れてこられる前に悪魔と交わったから」

今まで彼が目にしてきたのとは全く違う蔑むような冷たい笑みを浮かべたセペレナが、膨らんだ腹を撫でながらもう偽る必要の無い感情を吐露する。
両親を死へと導いた張本人であるという怨嗟、そして丸々と太った身体への生理的な嫌悪感。
そんな相手と褥を共にしてきたことへのおぞましさを、彼女は眉を顰めながら言葉にしていく。
寵妃のまさに豹変と呼ぶに相応しい変化に、咄嗟には何が何だか分からずにうろたえるレメグ。
けれども少女が自分に向けていた振る舞いが全て偽りであったことを理解すると、彼は愕然とする。

「馬鹿な……!」
「その表情が見たくてずっと待っていたのよ。貴方は失意のまま惨めに死ぬの」

ただレメグを殺すだけならいくらでも機会があった。
けれども、王としてあらゆる望みを叶えながら享楽に耽る満ち足りた暮らし。
それを謳歌したままではなく、悲嘆のまま最期を迎えさせてやろうという思惑は見事に成功しようとしていた。
セペレナがまるで歌うような口調で告げると、程なくして子供が産まれてくるはずの場所から血が流れ始める。
子宮という檻の中で十分に育ちきりとうとう解き放たれるべき時に至った怪物は、食欲という名の本能に従って最も身近にある肉に食らいついたのだ。

「ふふ、もうすぐ、ぅあ……! 悪魔が、生まれてくるわ……!」

内臓を貪られる激痛に襲われながらも、なおも笑うことをやめない彼女。
それこそが復讐が実現しようとしているのだという確固たる証拠だったからだ。

「ひぃ……!」

血に濡れた粘膜が内側から広げられ、女性の手首くらいの太さがある黒い何かがうねりながら秘部から飛び出してくる。
それがまるで釣り上げられた魚のように跳ねながら寝台の上を叩くと、この場にいる少女以外の全ての者が思わず悲鳴を上げた。
重力に従って表面からだらだらと垂れる、粘性を持った透明な液体。
その何かは口を開けるように内側の赤い肉を覗かせると白いシーツを食していく。
魔女の伝説はルシェクシラにおいても有名であり、誰もが知っているようなものである。
当初は少女の言葉を信じておらずおかしくなっただけと思っていた者達だったが、実際に目にすればセペレナの体内から姿を見せたのが言い伝えられてきた怪物であることを理解せざるを得なかった。
恐慌が広がり、布を持っていた侍女は思わず手にしていたものを取り落としながら室外に逃げ出す。

「まだ死にたくない! 誰か、誰かどうにかせよ!」

頬から顎に至るまで丸々と肉がついたレメグの顔が恐怖の色に染まる。
恰幅のいい巨体は腰が抜けて床に座り込みながらがくがくと震え、目の前の光景に恐れおののいていた。
上擦った声で助けを求める彼だが、その声に応える者は誰もいない。
異様な状況の中にあって、王であるという地位など何の意味もなさなかった。

「無駄よ、もう手遅……っ」

嘲るようなセペレナの言葉が突如として途絶える。
彼女の身体は大きく背筋を仰け反らせながらびくびくと痙攣し、大きく膨らんだ腹部の皮膚が蠢く。
子宮だけでなく他の臓器も貪られて、遂に命を失ったのである。
人形のように力無く揺れる四肢、勢いよく宙に吹き出す鮮血。
ぶちぶちと音をさせながら紙を破るかのように内側から腹の皮膚が裂けていき、芯が無い柔らかな枝のような黒いものが大量に飛び出した。
思わず後ずさった医師の右腕が根元から食い千切られて彼は絶叫を上げるが、その声もすぐに途絶える。
間もなく室内はそれに埋め尽くされ、少女の白い肢体も動けずにいた王の巨躯も等しく失われた。
触れたものを無差別に捕食しながら急速に成長していく怪物は、伝説に語られているのと同じような惨禍をもたらした。
あたかも巨木の幹のように膨張していく肉塊。
広大な都が全て食い尽くされるまでは数日とかからず、成長するに比例して被害は加速度的に周囲へと拡大していく。
そうしてルシェクシラ王国が存在していた場所から人間は皆消え去り、建物も植物も全て失われた大地に存在するのはムパビスただ一人になった。


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